王道への回帰

さて、ここまで書いてからまたかなりの月日が経った。そして私のMacは明らかに安定期に入り、幾つかの問題が解決した。SyquestドライブのINITがアップデートされた。これによってハードディスクの書き込み不良がピタリと止まった。また、マイナーな事であるがDeskWriterのインクが乾いてからは水では流れないものになった。AppleはStyleWriterを発表したが私の推薦するプリンタは今に到ってもこのDeskWriterである。私の過去の判断が間違っていないのは嬉しい限りだ。それからSyquestのカートリッジを3つ再びアメリカに通信販売で申み、再びディスク容量不足は何とかしのげるようになった。この後ステップが非常な安値でカートリッジを売り出したので、結局余り安く上がらなかったのだけれど。

最近、このカートリッジの一つにSystem7.0をインストールしてみたが、アクセラレータ付きの状態ではシステムの何かのリソースを読み込めないと言って立ち上がらない。アクセラレータを(ソフト的に)外すと確かにSystem7.0が走るが、余りの遅さに利用を諦めてしまった。しばらくするとRadiusはSystem7.0対応のROMを出すと発表し、日本パックリムもROMとINITを8千円台でユーザに送ると言い出した。これでSuperDriveも2HDディスクをフォーマット出来るようになる筈だから、結局前回の2万円かかるアップグレードをしないのは正解だったようだ。FAXで申し込んだが、未だROM発表のアナウンスは受けていない。どうしたのだろうか?これが来たらSystem7.0とGomTalk(漢字Talkインストールキット)をインストールしてやろうと思っている。

それから私は職場用にMac Plusを一台買ってしまった。7万5千円で出入りの業者から中古を購入した。40Mbyteのハードディスクを内蔵したアイボリーの日本語版Plusだった。中にファンを入れてあるので発熱の問題はないが、電源が弱いので一晩過ぎると大抵電源スイッチを二度入れてやらないと立ち上がらない。2MByteのメモリが付いていたので迷うことなくSEからメモリ増設の時追い出した256KのSIMMを2枚差し込んで2.5MByteとした。また、外部ドライブが必要なのでSEからSuperDriveと引き替えに追い出した内蔵800Kドライブにケーブルとケースを自作して取り付けた。久し振りにパーツ屋で部品を揃え、深夜にケースをやすりでゴリゴリ削った。配線のためにGuide to the Macinotsh Hardwareというアップルの英文の本をじっくり読む羽目になったがこれもまた楽しい。しかしこの記述に合わせて結線するといきなりイジェクト動作を繰り返してどうにも動かなかったのには冷汗が出た。知り合いの800Kドライブの現物の結線をテスタで当たって正解を見つけたが、後で買ったMaintosh Repair & Upgrade Secretsには正しい記述があった。これに大阪のソフマップで何と9800円で叩き売っていたRapportを取り付けてDOSとのファイル交換を実現している。

パソコンのハードいじり:
私は高校生の時、丁度普及し始めた8bitのパソコンを兄と共同で購入し、その後数年間使った。アメリカのパソコンメーカの名門、コモドールのVIC-1001というマシンで御記憶の方も多かろう。このマシンは非常に単純な構成でソフトからハードまでその殆どを把握できた。逆アセンブルをとことんやって解析したり、回路図を読んだりした。ちょこまかとハードをいじって補器類を付けては小さなグレードアップをして喜んだものだ。質屋で買ってきた電子ピアノの鍵盤が8*8のキーマトリックスなのを良いことに、ここに8bitのラッチを8つ付けて鍵盤に並列接続し、VICからコントロールして自動演奏(伴奏)させたのは面白かった。64ビートの4パート同時進行は1MHzの6502プロセッサによるBASICでは遅すぎて、プログラムは殆ど機械語(アセンブラではない)で書いた。聞き取れないほどのスピードで演奏するかと思っていたのに実際はそんなに速くならず、この古い8bitマシンの能力的限界を思い知った。もっと馬力のあるマシンが必要だと思った。ろくなアセンブラがなくて、バイト数を手で数えてアドレスを記入していたのが懐かしい。

Macintoshを購入したとき私はこのようなマニアックな世界と決別できると考えていた。「こんなに高級なコンピュータを買ったのだから、もう変なことはせずに済むだろう」と言う訳だ。しかしこれは私の判断が間違っていた。基板のパターンを読むことはしなくなったが、必要とあればバラしてテスタを当てることに今は何のためらいもない。どこまで行ってもパソコンはパソコンだ、と諦めがついた。

以上が貧乏な私が道を誤ってMacintoshを買ってしまった事から始まったセコく険しいMacLIFEである。「如何にして安く」が主たる動機であるが、その結果私は様々な経験をすることになった。海外の雑誌の記事や広告を良く見るようになった。日本のメーカーの商品がアメリカでどれほど安く売られ、国内では高い価格設定がなされているかも良く判った。少し前にアメリカでヒステリックに叫ばれたダンピングは表面的には事実なのである。モノクロームのモニタやメモリなどの分野では韓国などのメーカーが日本のメーカーより更に安い価格を付けて市場に食い込んで来ている事を知った。もはやHYUNDAI(現代グループ)、GoldStar(金星グループ)はSONYやCASIOと同じ広告欄で普通に見ることが出来る。そしてこの一年で彼達の製品がモノクロモニタから80386最高速のPC/ATになるのを目にしてきた。アメリカではこのように激しい競争の結果、標準的なパソコン(PC/AT 386/16MHz)が$800辺りで手に入る。安いモデル(PC/AT 286/12MHz 1.2MFD 42MHD)なら$550位だ。物価の差はあろうが、彼の国の方がコンピュータ事情は(特に日本製品の力によって)遥かに恵まれている。

それもこれも我が家のMacが私に与えてくれた情報だ。この小さな9inchのスクリーンの向こうにはまだ私をワクワクさせるものがあるに違い無い。Macを私が使い続ける最大の理由は、私がこれを好きだからだ。そして私が好きなものはMacのソフトでもハードでもない、Macが私に与えてくれる「何か」なのだ。それがインディ・ジョーンズさながらのアドベンチャーへと私を連れて行ってくれる。

海外でのニッポンセイヒン:
日本の製品が海外でどのようにしてどのくらい流通しているかを私は全く知らなかった。その種の情報が必要無いため入ってこなかったのだ。しかしダンピングの反対運動に不当な印象を与えるためにアメリカの商品の品質が悪いことは報道されても、何故EPSONのIBM PCコンパチが非常に安い事は報道されないのか?日本のメーカーの意欲的な商品が国内では売られていないことも知った。NECはPC-Engineに使われたポータブルなCD-ROMドライブのSCSI版をアメリカではさっさと売っておいて、何故かなり長い間、国内で売らなかったのか?UltraLightは?富士通アメリカは3.5inchの優秀なフロッピードライブを非常な安価で提供しているにも拘らず、FMRが非常に長い間5inchに固執したのは何故か?シャープがアメリカで売っている9600bpsのモデムは何時になったら国内に出回るのか?プリンタなど周辺機器やPC/AT互換機ではアッと驚く安値で日本製品が世界市場を席巻している。なのに我々はそれを知らず、やれ互換性がどうだ純正品がどうしたと言っては国内の僅かのメーカーの事しか頭に無い。我々には「おらが村の大将になりたい」癖があるのか?

'91.12 Yasu.


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