Honda CBX 550シリーズ(オーストラリア仕様)

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ホンダは1982年はじめに、オーストラリアで 4気筒のCBX 550 をリリースした。その販売は1984年末、1985年まで続けられた。16バルブ、572cc の4気筒エンジンは、1978年に登場した怪物6気筒、CBX 1000譲りのものだ。要求仕様の馬力 65ps/10000rpm、乾燥重量 184kg、そのパワー・ウェイト・レシオはこの種の小型車では例外的な値を示し、 その信頼性は多くの異なった状況と非常な長距離通勤によって証明された。

CBX 550 は静止状態から400mを12.72秒で走りきり、最高速度は186Km/hに達する。

その車体には新しい機能が詰め込まれていた。
気筒当たり4バルブを備えた最初の中排気量車の一つであるうえに、カバーに収められたインボードディスクブレーキ(フロントは日本国内向けの400の一つに対して、二つある)が自慢だった。パッシブのアンチ・ダイブが付いたフロントサスペンションや、ホンダの特許であるプロ・リンク・リアサスペンションなども中排気量車には革新的なものだった。六速ギアボックスもうまく合っており、特に六速は突出したオーバードライブになっていたが、これがハイウェイを引っ張るのに有効で、驚くほどのトルクを使いでのあるものにしていた。

ブレーキシステムは特に興味深いものだ。ブレーキは車軸に取り付けられるのではなく、ローターがその外側の三個所でホイールに取り付けられており、キャリパーは内側からそれを挟みつける。このブレーキシステム全体は風穴の空いた金属の覆いに囲まれている。これで鋳鉄製のブレーキローターを見苦しい錆びの心配なしに使えるようになった。(この問題こそ、他のメーカーがステンレス合金のローターを使っていた理由である)そしてCBXのブレーキは他のメーカーの露出したディスク・ブレーキと違って、雨の中でもちゃんと機能する。

もちろん重量面では不利であり、余計な金属部品が両フォークの先の重量を増やしている。しかし見返りとして得たブレーキの能率の良さはそれに見合うものと思える。フロントフォークはエアアシストになっており、圧力を左右で揃えるためにチューブでつながれている。同様にリア・ショックアブソーバーもエアアシストされている。

燃料タンクは230kmを走り続けるのに充分なほど入り、燃費は1ガロン当たり50マイル以上で、これはツーリング状態でも同様である。私はきっちり300kmでリザーブに入るのを旅行中に幾度か目撃した。あっと驚く効率の良さだ。

そのエンジンはメンテナンス要らずに設計され、また際立った頑丈さでそれを実証した。 ただ新品に換えても2万キロも経てばガタガタ鳴り始めるカムチェーン・テンショナーの出来の悪さを除いては。数あるアフター・マーケットである fixes も、この深刻な設計上の欠陥を解決する事は大して出来はしなかった。

そのほかの CBX のマイナス点といえば、湿潤な気候の場所では2万キロごとに錆びで補修が必要になるエキゾーストシステムだ。標準仕様のエキゾーストシステムは、3000回転あたりからまっすぐにレッドゾーンの11500回転まで伸びるトルクを生み出す、途方も無く良くできたものだ。それですら最後までそのままではなく、通常、単車の保証期間が過ぎる頃に、多くはアフター・マーケットの4 into 1の集合管に交換される事になる。それらは一般に軽く、錆びに強く、エンジンの強いトルクと引き換えに、トップエンドでのより高い性能を引き出した。私の集合管はパワーバンドを4000回転手前からに引き上げ、そこでより高いトルクを生み出してくれる。アフター・マーケットの排気管にはもう一つ良いところがある。リアタイヤの交換が必要になったとき、後輪の車軸に簡単に手を入れられるようになるのだ。

ツーリングの際には、この単車はスムーズで、パワフルで、その広いトルクは高速道路をうまく走らせるのに向いている。まったくのところ、私などは高速道路で一体何速に上げたのか忘れてしまい、既に6速にシフトアップしていたのに、まだまだ強く加速するからてっきり5速だと思っていた事があったくらいだ。

ホンダがCBXのフロント・ホイールの16インチ化に抵抗してくれた事には感謝している。(この頃ほかの幾つかの車種ではそうしていたのに) そうでなくても、CBXは低速時には常にフロントまわり、特にトレイリング [ 訳者註 : ひきずり具合、トレールの度合い trailing ] が少し"ナーバス"になる。多くのオーナーはこれを少し大きめのフロントタイヤを付けて、トレイルを大きめにする事で防止していた。しかしこの処置はステアリング反応を悪くしてしまい、せっかくの素晴らしい操縦性の良さ[ 訳註 : 原文では manoeverability 筆者は lightness of steering と説明] を減らしてしまう。私はあくまで標準のタイヤでこれを解決する方法を見つけた。ステアリングヘッドのベアリングをテーパータイプのローラーベアリング(非標準)に交換し、推奨されているより少しだけ強めに締め付けておくのだ。これは操縦性の良さを減じない。しかし低速時には著しく"シミー"を減少させる。[ 訳註 shimmy : 自動車の前輪の異常振動 ]

この不安定さはフロントフォーク下部にある、カバーされた全金属製のフロントディスクによる過剰な重量集中が原因だ。私はCBX400の場合には一体どうなるのかオーナーに聞いてみたい。でもCBX400はシングルフロントディスクだから、きっとそんな経験をしていないと思う。賭けるならこっちだ。

CBXには十分快適なシートが付いているが、私はツーリングや一日で長距離を走るときなどは常に羊の皮製のカバーを掛けた。オーストラリアは非常に広いのだ。私はリアのラックに小さ目のトップ・ボックスを取り付け、またツーリングの時には振り分け式のパニア・ケースを使った。私の今のCBXは小さ目のラックにトップ・ボックスを付け、これもツーリングのときしか使わないが、前のオーナーが持っていた良く似合うクラウザーの非常に出来の良いパニア・ケースがある。

その他に面白そうな事を幾つか。
イグニッションキーに、大きなキーホルダーを付けて使ってはいけない。その重みがイグニッションキーおよびステアリングロック部分を引っ張ってしまい、鍵の中の筒が擦り減ってしまう。その結果、しばらくするとロックが効かなくなり、修理する羽目になってしまう。私はこれを経験から学習してから、イグニッションキーだけを鍵に差して使うようにしている。

サイドカバーを開けるときは注意深くやるように。プラスティックのタブがサイドカバーを留めているのだが、これが非常に壊れやすく、うまくくっつけられる接着剤が見当たらない。しかも交換用のサイドカバーはものすごく高価なのだ。

ブレーキマスターシリンダーは、年に一度は新しいブレーキフルードに入れ替えるように。リアのシリンダーは錆びやすく、後ブレーキは徐々に詰まり、バイクはのろのろ走りはじめて、全くのところ、しばらく乗る気をなくさせる。

私が最初にCBXを買ったのは、1983年半ばで、少な目のマイル数の1982年モデルだった。それからの7年間で6万キロ近くを走らせた。通勤、たまに飛ばし [ 訳註 : 原文 scratching ]、それからたまには本当に長距離のツーリングで。そういうすべての仕事において、こいつは全く例外的に有能なやつだとわかった。私はこれを1988年に売り、また別の少な目の(非常に少ない)マイル数のものを1993年の半ばに買った。これは1982年モデルだが、距離計は8500kmを指していた。私はこれを23000km以上走らせ、今は走るのをやめて、新しいフォーク・シールを受け取り、キャブレターのオーバーホール、それにリアブレーキのマスターシリンダーと少しのチューンアップをするつもりだ。夏には再び道路に戻したいと思っている。(オーストラリアの夏は12月から3月)

オーストラリア特有の重要な事:
オーストラリアには、CBX 550 は二つの形で輸入された。フェアリング無しで、ヘッドライトがフォークに取り付けられている標準の CBX 550と、900 F2b の小型版のような、フレームマウントされたフェアリングと、それに固定されたヘッドライトを備えた CBX 550 F2 (これはCB 900 F2bと同じ車種名の付け方だ)である。色は赤/オレンジ/黒と、赤/白/青(HRCのレース用のチームカラー)がある。この二つの色のうち、奇妙な事に、赤/オレンジ/黒がHRC色より多く売れた。1984年の末から1985年にかけて、全面オレンジの、ストライプやホンダのデカールのないものも売られた。このモデルはオーストラリアでは珍しい。

この情報がホンダ最高の中量スーパーバイク、ミニCBXを愛し続けている人達の興味を引き、有用である事を願っている。こんなに短期間しか売られなかったが、記録的な人気があり、そしてそれが今も続いている事で証明されたバイク。
I love them!!


Phil Hall (webby@halltech.com.au)
翻訳は安田による。
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