2016年11月の米国大統領選に際して感じたことをサミダレ式に出した投稿をまとめたもの
1989年にベルリンの壁が壊されたとき、僕は「歴史が動く」その日を目撃している、という意識が持てなかった。だから今回はそのときのために以下の記事を記録しておく。この記事が言う「もう一人」が当選したときのために。
“もう隠すのは止めよう。ヒラリーが嫌われる理由はただ一つ、女性だからだ。”
Huffington Post, Larry Womack, 2016年10月30日
http://www.huffingtonpost.jp/larry-womack/clinton_b_12707182.html
この記事の主張の真偽はともかく、“歴史は私たちのありのままの姿を映し出す” ことを意識しないと。つまりもしこの記事の主張が当たっていたとしたら、僕らは本当に恐るべき瞬間を目撃しているのだと思う。この空気を、僕らは記憶しておかなければ。。 トランプ支持者に関する説明として、以下のような記事もあった。
“トランプに熱狂する白人労働階級「ヒルビリー」の真実”
Newsweek, 渡辺由佳里, 2016年11月04日
http://www.newsweekjapan.jp/watanabe/2016/11/post-26.php
“彼らは、「トランプのおかげで、初めて政治に興味を抱いた」という人たちだ。「これまで自分たちだけが損をしているような気がしていたし、アメリカ社会にモヤモヤした不満を抱いてきたけれど、それをうまく言葉にできなかった」という感覚を共有している。”
このあたりのことを書いてすぐ当日を迎え、トランプが勝った。これですぐ戦争になるわけでもないし、任期中に何かが起きると決まったわけでも無いし、ひょっとしたら彼はとても良い方向に米国を導くかも知れない。ただもし、10年経った頃に「結局こんな事になった。その始まりの日が2016年11月8日(今日)だった」と言われるようなことになったときに、僕らはその日に立ち会っていた事実を思い出す必要がある。
ところで開票後すぐに CNN が出口調査を出している。それを見る限り「ヒラリーが女性から嫌われている」という言説は誤りだ、と思える。直接的なデータが無いが、白人男性が嫌っている、と思える。 つまり女性だから嫌われている可能性は残っている。
“exit polls”, CNN, 2016.11.9 updated
http://edition.cnn.com/election/results/exit-polls/national/president
ヒトラーも最初はまっすぐに国民からの支持・信任を得て上がってきた。そのようなことがまた起きる、とここで言いたいわけではない。僕らは自分たちの視界に入っていながら、それをやり過ごしてしまうことが多いことにただ注意したい。僕は政治的なことに関心が無いし、備えることもしないけれど、ただ、この日のことを、この空気感を記憶しておきたいと思うだけだ。 そう思っていた矢先に、まさにヒトラーを見た時の New York Times の記事がフィーチャーされた。(記事自体は一年前のもの)
FIRST GLIMPSES - “1922: Hitler in Bavaria”
New York Times, Mark Bulik, 2015.2.10
http://www.nytimes.com/times-insider/2015/02/10/1922-hitler-in-bavaria/
“… his anti-Semitism was every bit as genuine and violent as it sounded, and that he was merely using anti-Semitic propaganda as a bait to catch masses of followers and keep them aroused, enthusiastic and in line for the time when his organization is perfected and sufficiently powerful to be employed effectively for political purposes.
A sophisticated politician credited Hitler with peculiar political cleverness for laying emphasis and over-emphasis on anti-Semitism.
Saying:”You can’t expect the masses to understand or appreciate your finer real aimes. You must feed the masses with cruder morsels and ideas like anti-Semitism. It would be politically all wrong to tell them the truth about where you really are leading them.”
彼(ヒトラー)の乱暴な反ユダヤな言動だが、反ユダヤのプロパガンダは単にフォロワーたる大衆をキャッチして興奮・熱狂的な状態に置くためで、彼の望み、政治的な目的が大成されるための一時的なものだ。手練れの政治家の一人はヒトラーの反ユダヤは、奇異だがその政治的賢さだと評している。曰く:大衆が本当の詳細な目的を理解、あるいは感謝するとは思えないだろう。彼らに真に自分がどう導こうとしているか、その真実を伝えることは政治的に全く間違っているのだ。
そしてこんな記事もある。僕には上の New York Times
の言説と奇妙な思考の一致を感じられるものだ。
“ドナルド・トランプはビートたけしと理解せよ”
アゴラ, 渡辺 龍太, 2016.11.11
http://agora-web.jp/archives/2022587.html
“ちなみに、その時、私が見たトランプ氏を大統領に押していた人は、女性や有色人種も多くいましたし、トランプ氏は彼らと笑顔で接していました。なので、昔からテレビを見ていた様な人は、トランプ氏が差別主義者なんて、誰も思っていないのです。おそらく、たけしさんが『ババア死ね』的な事を言ったとして、それを言葉通り受け取るのは、テレビを全く見た事のない冗談の分からないエリートだけですよね。”
僕はトランプを否定するわけでも賛同するわけでもなく、単にこの日起きたこと、その時の空気感、自分の周囲のことを記録しておきたいだけだ。その日が来た時のために。
僕らには強い正常性バイアスがある。また、分かりやすい話が大好きだ、という恐ろしい傾向がある。結果は非常な未来に出るだろう。歴史が動くその時に自分が立ち会っている、ということを意識できるようになれるだろうか、というのが僕の焦点だ。
既に予想された通りのことが起きている。つまり憎しみあるいは嫌悪が引き起こした騒動が報告されている。これらはすぐに収まるだろう、トランプはビジネスマンだから、案外誰がやっても同じだろう、周りがそんなひどい事にはさせないだろう、といった評価(予測)が、実は単なる正常性バイアスだった、と言う事にならないことを願うばかり。。。
歴史は多く人が動かす。そして天災と違って人災は防げる可能性がある。極端な例はヒトラーだ。彼にしても時代が産んだのだと思うが、それにしても止められるものは止めたい。そのために自分が正しい理性を持ち得ているかどうか、が気になる。
(ただ、僕はホントに non-political
なので、その点ではとても自己矛盾しているのだけれど。)
今回起きた事象の直接的な分析が、しばらくの間、いろんな人たちから出てくるだろう。そのそれぞれには余り興味は無いが、ともかく何年か先の自分に向けて、今の自分に見えている風景を、できるだけ残しておきたい。
自分の視界がフィルターバブルに掛かったものであり、それを取り除けるとは思わないが、それでもひとりひとりがジタバタすることは無駄では無いだろう。
2016.11.13