TIMEXの事

世間では時計と言うとライターと並んで「こだわりグッズ」の代表の様な物だけど、僕は時計にはそれほど関心はない。ただ針式であれば良いと言うこと位なものだ。デジタル時計はどうも良くない。時間の間隔が判らなくなるのだ。小学生の頃に受けた時計の読み方の授業を今でも僕は覚えている。紙で作った時計の針を回して、何時何分から何時何分まで、さて何時間何分あるでしょうかという類のものだ。今でもそういう授業は行われているのだろうか。ひょっとして今ではデジタル時計の表示盤でやっていたりして。

僕が初めて腕時計をしたのは中学生のときで、それは田舎の叔父に中学入学祝いだと言って買って貰ったものだ。電池式だが水晶発振ではないと言うタイプで、当時としては当然ながら針式だった。僕はそれを長く使っていたが扱いが荒いようで上面のガラスを何度も割っていた。交換するのに3500円程掛かるのだけれど、根気良く何度も交換した。結局5回ほど換えたように思う。僕が最近、普段に使っている時計は、針式で文字盤の下の方に小さくデジタルの文字盤が付いていて、1/10秒のストップウォッチが付いている奴だ。プログラムのベンチマークなどをするためにストップウオッチが欲しかったのだ。品質はどうでも良かったので値段は3000円程度だ。扱いは相変わらず荒いが、壊れたらまた同様の物を買うと言う感じで使っている。

こんな僕でもちょっと欲しくなって買って貰った時計がある。本当は自分で買おうと思っていたのだが、その年お互いに遅れてしまった誕生日の記念品にと、女の子と時計を交換する事になってしまった。その時僕がリクエストしたのがTIMEXのIndigloシリーズだ。TIMEXというのはアメリカのメーカーで結構古いところなのだが、どちらかと言えば若者や軍隊向けに安物の時計を大量に提供しているところだ。僕にとっての初めてのTIMEXはIndigloではなく、軍用のものだ。非常に単純な針式で、単に僕が川などに行ったときに水に浸けたりする時に気にならないために選んだのだ。ベルトがナイロンなので水に濡れてもすぐ渇いてありがたい。

しかし防水が殆ど効いていないことに後から気が付いた。すぐ浸水して、翌日くらいに文字盤のガラスが曇るのには参ったが、どんなに濡れても裏蓋を開けて乾かしておけばいつでもちゃんと動き続けるのには恐れ入った。しかもこの時計は1年しか電池がもたない癖に正規の電池は特殊品で国内では手に入らない。仕方がないので国産の電池のうちで一番形の合うものを入れ換えながらまだ使っている。僕が大学生の頃に買ったのだから、もう10年近くになる。時々気を失ったように止まったり気が付いたら半日くらい遅れていたりするが、まあ気に入っている。

この当てにならない時計のせいでTIMEXは僕の記憶に残るメーカーとなったが、そのTIMEXが新しく出した時計がIndiglo Nightlightシリーズだ。これは針式時計の文字盤部分の全面を電子蛍光(EL)で発行させ、夜間でも見える針式時計を作ろうと言うものだ。ELは非常に明るく、真っ暗の玄関先で鍵穴を何とか探せるくらいの光量が有る。何年か前のエンパイア・ステートビル爆破テロの時に、真っ暗闇の中をこの光を頼りに出口までたどり着いた人が居たと言うことで一躍有名になった。このIndigloは発売当初で数種類存在したが、僕はそのうち最も普通の時計に見えるものを選んだ。もともとTIMEXはユニセックスが一つの売りなので、パッと見には小さめでやさしい感じに見える。

どう言うわけか僕がこれを買ってしばらくしてから、同じTIMEXでも僕が買ったのとは違うSaffariというアウトドアっぽいイメージのモデルが国内で随分売れるようになった。僕の時は京都と大阪を探し回ってTIMEXを扱っている店を探し回ってようやく目的のモデルを見つけたものだが、今ではこのSaffariならどこの百貨店でも大量に売っている。有名になって嬉しいような悲しいような、、、

このIndigloを買ってくれと、女の子にその機能を説明したら彼女は怪訝な顔をして「面白い時計が欲しいのね」と言った。ELはそれほど長持ちしないで劣化するとか、つい最近こういう時計が出たんだとか僕が言ったものだから、単に流行り物を欲しがっているだけに見えたのだろう。ようしそれなら10年経ってもこのIndigloを使っているところを見せてやるぞ。驚くなよ。



Yutaka Yasuda

1995.02.00 (unknown)