貧乏人の Mac LIFE

愛用の Macintosh SE について 1991 年から 1994 年頃に書いたもの。

貧乏人は個人輸入する

私がMacを購入したのは1988年12月、勤めはじめて一年目の冬だった。学生の頃からMacは欲しかったが、その当時はMac Plusが398,000円と、到底学生の私に買えるものではなかった。まあ、いくら勤めはじめたからと言って、その状況が劇的に改善されるわけでもなく、やはり私にとってはMacは非常に高い買物だった。その貧乏人がMacを買おうと決めたのは友人「K」のアメリカ留学が原因だ。Kは私と同じゼミで、アメリカに数カ月留学したいが為に4回生を留年して休学した変わりものである。彼に留学先の生協でMacを学生割り引き価格で買ってきてもらうことにした。当時彼の国ではMac Plusを大学生協で$900位で売っていた。当時のドルレートが150円辺りだったから税金を入れても約17万円と、国内で買う半額で手に入るはずだった。この価格なら買えると判断して、KにMac Plus購入を依頼した。

税金:

アメリカで物を買うと州ごとに異なる間接税が掛かる。Sales Taxと呼ばれる消費税みたいなもの。ちなみに彼が買ってきたのはニューヨーク州で、10%近い税率だったと記憶している。この他にも何とか言う税金(州税)が課せられたと思ったがよく覚えていない。
Kの留学も残すところ一ケ月くらいとなった1988年の11月、国際電話で彼と連絡しながらいよいよMacを買おうとしたら既にその頃からPlusは生産を停止しており、生協はおろか電器屋へ行ってもPlusはもう無いからSEを買えと言う。当時SEは国内では598,000円と言う法外な値段で売られていた。彼の国でもキーボード別売で$1,900である。予算がいきなり倍になってしまったが仕方無くSEの最低ライン、1MByte RAM 2FDDを買うことにした。

国際電話:

国際電話を最も簡単に掛けるのは向こうに居る相手からコレクトコールで掛けて来て貰うことだ。電話に出ると向こうのオペレータが英語か何かで「ペラペラ」と言うから、訳が判らなくても「Yes」と言えばつないでくれる。私も最初のうちはこうしていたが、その月のKDDからの請求書を見て目玉が飛び出した。実はそれが最も高価な掛け方だったのだ。
ここに至ってKDDのチラシを見て判断した限りでは、深夜にこちらから直接ダイヤルして掛けるのが最も安い。KDDを利用して掛ける場合は「001」に続いて相手の国番号(アメリカは「1」)、続いて相手の電話番号を回せば良い。当然向こうの人が出るから英語(など)で「ペラペラ」とか言う。あとは頑張って自分が話したい相手につないでくれるように伝えれば良い。外人(差別用語だな、これ)と話したことのない私などにとっては結構勇気が要るが、肝心なのは相手に自分の目標を伝えることだからと自分に言い聞かせて、余り相手の言うことを聞かないでひたすら自分の要求を繰り返すのだ。ちなみに私が使った英語は以下の三種類だけである(笑)。このやり方なら長話しなければ一回数百円で話せる。

Hello, This is Yasuda, from JAPAN. これを言うと急いでくれる時がある。 Please connect to K. もしもKが居ないようなら、 Tell him that, I will call again one hour later. こう言って一時間待つ。

ところで実際に買う段になって困った問題が二つ現れた。一つは輸入関税の問題である。あと一つはCOCOM輸出規制のことである。

輸入する際に関税が法外な率で掛かってしまってはわざわざ高いリスク(例えば輸送途中の故障、保証が効かない、日本語システムのサービスが受けられない等)を犯してまで、現地購入して持ち帰る価値がない。そこで大阪税関の相談係と言う所へ電話を掛けてじっくり聞いてみると、どうやらコンピュータ機器には輸入関税は掛からない様な事を言う。何やら「データを処理する機器云々」と、全く一般的でない用語を駆使した条文を読み上げた最後に「などには関税は掛からない」と言う。ほんまかいな?と思ったが何度聞いてもそうとしか思えないことを言うので正しいと信じることにした。しかしこれは本当か?だとしたら海外の製品を輸入販売して一儲けしようと考えたときは何でも良いから計算機の周辺機器のような振りをして輸入すれば関税はすべからくタダになってしまうのか?不思議な世界だ。

COCOM規制についても大阪税関の相談係で問い合わせると、あれは輸出規制だから輸入の際は問題にならない様なことを言う。ではアメリカから簡単に持ち出せるかと言うとそうでは無い。アメリカからの持ちだしチェック(空港で行うのかな?)の際にアメリカ商務省が発行した許可証が要ると言う。ではその許可証はどうしたら貰えるかと言うと商務省へ行って「この物品はCOCOM対象ではない国(例えば日本)に持って行く」事を証明するような証拠を使って書類を提出すれば良いらしい。そのような証拠など想像も付かないと言うと、その証拠用に通産省の方で「この物品は確かに私の国(日本)に持ってきます」と言う様な書類を発行してくれると言う。それを郵便で相手に送れば良いわけだ。ふむふむ、と思っていると、その通産省が発行してくれる書類を貰うには「この物品は確かにその国で買う(買った)のだ」と言う事を証明するものが要ると言う。ここへ来て私の頭はふっ飛んでしまった!おいおいこの話はどこで止まるんだ?ニワトリが先かタマゴが先か?アハハハ!しかしこの馬鹿話はここで終っていて、最後の証明は私がKに注文を依頼するような内容の電報ないしテレックスの写しで良い。何だ、それではCOCOM規制など個人輸入のレベルでは全くのザル規制じゃないか!しかし私は結局この常識外れな書類操作をせずに済んだ。何となればCOCOM規制は確かに当時16bitコンピュータに適用されたが、価格が$5000を割るものに関しては除外されていたからである。即ちMac II(当時$4000強)は危ないがMac SE,Plusでは問題なかったのである。(この辺り、少し情報が古いがThe BASICの1988年9月号及びMac Japanの1989年2月号を参照すれば良い。)現在では東西関係の変化によってこの条約も大幅に緩和された。調べていないので判らないが、恐らく16bitコンピュータに関しては問題なくなっているのではないだろうか。

こうして私は輸入関税とCOCOM輸出規制の二つとも問題でないと判断してKにGOサインを出した。彼は向こうで出来た知り合いに頼んで Mac SE を買った。そして一ヶ月ほど使った後、彼は私のSEを文字通り「持って」帰ってきた。向こうの税関では「これは何だ、テレビか?」と言われただけで、COCOM規制の話など出なかったそうだ。

X線:

私は出入国の際に空港で浴びるX線を非常に恐れていた。ある程度強いX線はマイクロプロセッサの内部を破壊すると考えたのだ。結局Macは出国と入国の際の二回、X線を浴びたが何の障害も起こさなかった。しかし私は今でもX線は問題を起こすと考えている。特に集積度の高いマイクロチップを多用したものや、省電力設計のものは危険率が高いはずだ。Mac SEはその点電気的にはタフなはずだ。各チップの集積度は低く、消費電力など気にしていない。それでも確率の問題だと私は考えている。私のケースは単に「ラッキー」なだけだったのだ。英語に自信のある人は空港でX線を当てずに済むような交渉をして見ると何とかなるのではないだろうか。

はじまりは順調に

何とか我が家に到着したMacは、これから苦難の道のりを歩むことになる。半年の間、私はMacを何も増設せずにそのまま使った。1MByte RAMと二枚の800KByteフロッピーディスクだけで英語環境のHyperCardと、EGWord3.0を漢字Talk2.0の上で走らせていた。メモリとディスクの容量を極端にケチって使い続けた。その半年間に色々なプロダクトを試し、雑誌を買いあさり、とにかく情報を仕入れた。その結果、Macは投資の対象だ、そうしないとうまく働かないんだ、と考えてまずハードディスクを購入した。40MByteで当時最も安い15万円の物だった。ドライブはSeagate製だった。それから数カ月して今度はメモリを買って2.5MByteに増設した。この時も最も安いPACIFIC WAVESから2MByteを5万円ほどで購入した。当然アップ作業は自分でやらないと駄目だったので一緒にMacをこじ開ける道具付きのドライバーを買った。この時初めてMacの蓋を開けた。ボディの裏側の開発者のサインを見て面白がった記憶がある。

SEの基板:

私のSEは基板のレイアウトが新たに変更されたモデルだったので英文のオーナーズマニュアルの記述と一致していない。メモリ種類識別の抵抗はジャンパスイッチだったし、SIMMソケットの順番が違っていた。ジャンパスイッチについてはすぐ判ったが、SIMMソケットの件は最初は知らずに1MBと256kBのSIMMをあべこべに差し込んだ。電源を入れたら画面が縞々になって立ち上がらなくて冷汗をかいた。この事についてはMacLIFEの1989年5月号のQ&Aコーナに正解が記載されている。

こうしてようやく「他人並み(ひとなみ)」の構成になった私のMacの為に私はMacVJEとMacWORD、それにMacRecorderを購入した。この時MacVJEに付いてきた漢字Talk2.0と日本語システムのお蔭で、ようやく私は「日本語正規ユーザー」となった。(このような種類の人をアップルジャパンは正規ユーザーとは認めていないが、それならば私の知り合いのようにベージュのMac Plusを買った場合はどうなるのか?彼は日本語システムと漢字TalkをEGWord3.0のバンドルから取得している。それ以前には漢字Talk1.0とカナ版のマックペイントとマックライトを使っていた。これでも彼は日本語「不正規」ユーザーか?)

このうちMacVJEは今でも使っているが、MacWORDは出た最初に購入して、一度試してみて、その余りの遅さに辟易して以後全く使用していない。私の周りのMacユーザの全てに自信をもって購入リストから除外することを勧めている。MacWORDがVJEと同じメーカーが作ったとはとても思えない。非常に遅い。バグがある。爆弾が出る。(このメーカが出す製品で私が使ったものは、そのほとんどがβ版のように完成度が低いか、あるいは全く使い物にならないかのどちらかだ。この数少ない例外がMacVJEと古い版のMacTEXTだ。この会社の他の(まだ私が試したことの無い)製品に期待するつもりは、もはや全く無い。)周囲にはMacWORDは駄目だよ、と忠告している。幾つかの雑誌がMacWORDを紹介したが、いずれも使い物にならないと言う評価を下してはいない。何故だ?

どんどんと私の投資は増えて行き、次にはフロッピーの一台をSuperDrive(2HD)にアップグレードした。これは殆どやった人が居ない位マイナーなアップグレードで本来はSEをSE/30にアップする為のサービスの一部だった。しかし私は将来を見越してメディアの互換性を確保したかったのと、DOSの文書を扱いたかったので思い切って8万円投資することにした。ドライブよりもむしろSWIM(新しいディスクコントローラカスタムチップ)と新しいROMが欲しかったと言って良い。こうしておけば将来DOS Mounterの様なものが非常に普及して一般的になっても、ついて行けるだろうと考えた。

更に暫くしてからモデムを購入した。それ以前から借り物の1200bpsのモデムで近所の草の根BBSに参加していたが、ダウンロードのスピードのために2400bps/MNP4のオムロン製ポケットモデムを購入した。丁度2400bpsが普及し始めた頃で、購入価格は3万8千円だった。

続いてプリンタを購入することにした。学生の頃使っていたレーザプリンタの影響もあって、意地でもカットシートが使いたかった。ただドットインパクトの遅さとうるささにはウンザリしていたので、当時人気が出始めていた水性インクジェットのDeskWriterをAppleTalk対応になった直後に15万円強で購入した。日本橋で最も安いソフマップで並行輸入版のものだった。115ボルト用だから立ち上げのときに電圧不足で時々うまく働かないと他の店では言われたが、ちゃんと100ボルト用のトランスが付いてきていて現在まで何の問題もない。

モデム:

私が買ってからもうかなり時間が経ったが、まだ速度が余り上がらない。個人がモデムのような第3の周辺機器に掛けられる金額は5万円程度なので、これを下回る価格が付くまでは2400bps以上の製品は普及しないと考えている。その点現在の高速モデムはまだ「一般品」ではなく、一部フリークの為のものだ。私がこの時点で2400bps/MNP4のポケットモデムを選んだのは、これ以上価格は(そう大きくは)下降しないタイミングだったからだ。しかし2年以内に速度は次世代に移るだろうと考えていたので、それからのセカンド・モデムとしての再利用価値を残しておくためにポケット型を選んだ。移動可能なら例えば人の家にトラブル原因切り分けの時に持って行くときなど便利だ。実際そうして運んだことが数回ある。一世代前の遅いだけのボックスモデムなど利用価値はどこにもない。ところでMNPであるが、Class4がお勧めだ。Class5ではデータ圧縮をするために見かけ上高速になると言われているが、私と友人Kがオムロン製の同じMNP5モデムを直結して試してみたが、Class4接続の時とClass5接続の時で転送時間は全く変わらなかった。Class5はただ高いだけだ。MNPで重要なのは誤り訂正機能だけだと考えている。これはたしかClass3でサポートされたのではなかったかと思うが、そのような製品はないので現在はMNPはClass4が良い。

プリンタ:

現在のところ個人が自室で使うプリンタはインクジェット以外無いと思っている。低消費電力、高速、高解像度、夜でも平気でプリントできる静粛性はインクジェット以外では実現できていない。レーザプリンタが個人ユーザレベルの価格になってきたなどと雑誌は言うが、700ワット以上もの容量を自室から取れる人はそう多くない。冬に電気ストーブを使うマンション暮しの人はブレーカがいつ飛ぶかびくびくしなければならない。これは熱によるトナー固定をしている限りしばらく逃げられないだろう。ドットインパクトのシリアルプリンタなど、うるさくて夜間全く使用できない上に解像度の点で将来は無いと言える。熱転写プリンタが良いと言う人もいるが、これは非常に遅い。だから折角買ったプリンタも積極的に使おうと言う気力が湧かない。これは余りにもったいない。非常に綺麗な出力が速く得られるからどんどん使う気になる、こうでないといけない。現在のところ問答無用でおすすめプリンタはこのDeskWriterだ。私の要求する局面では水性インクであることとハイパーカードで文字が綺麗にプリント出来無い(スクリーンフォントとプリンタフォントの置き換えが出来ず、画面ハードコピーにしかならない)事を除けば欠点はない。

これで息が切れてしまい、それ以降しばらく大きな投資はしなかった。漢字Talk6.04アップグレードをしたのとスタックマガジン社のスタック雑誌を契約した事くらいだ。つまり私は日本語システムの「正規」ユーザになったのだ。これは数千円で日本語システムのユーザ再登録及び漢字Talk6.04の販売を行うと言うアップルジャパンにしてはえらくまじめなサービスに乗った結果である。そのすぐ後、再び数千円で漢字Talk6.07へのアップグレードの案内が来て憤慨したが、これも申し込んだ。

スピード頂戴、スペース頂戴

さてここで私のMacには再び大きなギャンブルの時がやって来た。何とRadiusのアクセラレータの中古を貰える事になったのだ。知り合いの友人がハワイで、ある通信販売店の移転に伴う不要品売り出しでアクセラレータボードを引き取ってきた。それはSE用でメーカーはRadiusらしい位しか判らないと言う。とにかくそのボードを私の手許に送って貰って、良く見てみると16MHzの68020と68881が載っている。むき出しのボードが導電プラスティックの袋にくるんであるだけで、それが果たして動くものなのかどうか判らない。それどころかこれをSE Busに差し込んで電源を入れた場合「プチッ」と言ってMacそのものがお亡くなりになる可能性すらある。うまく行ったら十万円以上のものがタダ、失敗してMacのメインボードが壊れた場合6万円で修理。ええい、ままよ、私のMacは幾多の苦難をくぐり抜けて来たではないか。きっとこいつは非常にタフな奴なんだ、そう言い聞かせて近所のショップからアクセラレータ用のInitを分けて貰い、度胸一発突っ込んでみた。見事にアクセラレータは働き、今に至るまで素晴らしく速く、正しく動いている。

但し、FDHDとの相性は良くない。1.44MByteにフォーマットできないのを筆頭に、Apple File Exchangerもバージョンによっては使えない。これはアクセラレータのROMのバージョンが古いからだと、現在のRadiusアクセラレータのサポート先である日本パックリムの電話に出た営業の人は言う。新しいROMへの交換は古いROMさえ送り返せば行うと言うからなかなか感心していたら、料金が2万円だと言う。冗談ではない。この会社は海外取り引きが多いからアメリカとの荷物運送は日常的にトン単位で行っている。(と、かの営業氏が言うのだから確かだろう。)だとしたら高々ROMが二つ位タダみたいな運送料だ。するとアメリカでもこのROMのアップグレード価格は$100位でやっているのか?営業氏は殊更手間や運送料の事を強調するばかりで、本国での料金の事を言わない所を見るとそんなに高くは無いのだろう。そう考えてこの非常に高価なアップグレードは行わないことにした。アクセラレータは立ち上げの際にソフト的にキャンセル出来るので、アクセラレータを外した状態でFDHDをフォーマットしてストックしておき、Apple File Exchangerはバージョンを選んで使うようにしてこの問題を回避している。他にも若干の問題は出ているが、それほど致命的なものではない。ゲームすら幾つかは全く問題無く動いた。

現在のところ私のMacはこのような状態で動いている。今の不満はアクセラレータをつけた為に露呈したハードディスクの遅さと、スタックマガジンを購入したために爆発したディスク容量不足である。ハードディスクは平均シーク35msと現在のレベルからすると相当に遅い。当時はコストパフォーマンスの問題であきらめていたが、そろそろ80ないし100MByteで18ms辺りのものを購入する時だろう。そう思っていたら例のハワイに友人を持つ知り合いがアメリカではPLIのSyquestリムーバブルハードディスクが$700台だから一つ注文してしまったという。メディアも一枚45MByteで$80位だと言うから搬送料$45を入れても国内で買うより遥かに安い。ステップのマイクロネット製の同じSyquestドライブは13万円台だ。思わず私もその人に頼んで注文して貰った。メディアを2枚付けても$1000位だった。これは正月半ば辺りに送られてくるはずだ。戦争でも起きてドルレートが大変動しない限り(非常にそれが心配だが)13万円台で、もうバックアップや増え続けるファイル容量に悩まされる事は無い。

バックアップメディア:

現在の所バックアップメディアとしてはフロッピー、リムーバブルハードディスク、光磁気ディスク、テープ、そしてハードディスクそのもの等が利用されている。私の身の回りではこの全てが使われているが、私の経験上通常のファイルシステムが載らない(ランダムアクセス出来無い)物は駄目だからテープは失格。(テープはワークステーションのように非常な大容量の丸ごとバックアップを要求するシーンで利用されるだろう。)フロッピーは情報交換のためのメディアであり、容量と確実性(エラー率)の点で、もはやバックアップには適さない。既にフロッピーより大きなサイズのファイルが日常的になりつつあり、圧縮、分割などして保存するのはあくまで非常手段である。そこでリムーバブルハードディスク(高密度フロッピーディスク)が出てくる。光磁気ディスクもこの範疇に入るが、まだ主流と言えるフォーマットが確立していない上に非常に高価だ。3.5inchでないと個人利用には不便だが標準化されるまでにMacintoshの寿命がくる。その点SyquestドライブはアメリカでMacのリムーバブルハードディスク市場のほとんどを押えてしまったから、しばらくの間はサポート、メディア供給は保証される。PCの世界で標準にならずに消えて行ったコニカの10MByteフロッピーの二の舞にはならない。 ここまで書いてしばらくこの原稿を眠らせておいたら、その間にリムーバブルハードディスクが届いた。そして、世間では大きな事件が発生した。戦争が始まったのだ。戦争が起きる前兆があった辺りからVisaによるドライブ代の引き落とし当日まで、私はテレビにかじり付いて為替相場に注目した。しかし私にとっては幸いな事にドルレートは差して変動しなかった。それどころか一時的な円高現象が起きて、引き落とされた1月20日時点では1ドル132円台であった。本当ならば私は戦争によって金銭的な得をする筈だったが、何故か銀行からの明細には137円台の記載がしてあった。

実際には金銭的損得はなかったが、これは私に大きな教訓を与えた。即ち、日本の大抵の人にとっては戦争は人道的あるいは道義的な問題なのだろうが、海外取り引きのある人や為替相場を扱っている人にとってはこれは経済問題以外の何物でもない。アメリカやヨーロッパでは国際的な取り引きは日本より遥かに進んでいるから、彼の国の人々のかなりの部分にとっては今回の戦争(後に湾岸戦争と名が付いた)は自分自身の財布に直接響く問題なのだろう。当然大損をするから戦争が起きてはならんと思う人も居れば、逆に大儲けが出来るとわくわくしている人だって居るはずだ。これを不謹慎だなどと言う人はきっと自分の財布が絶対に痛まない立場の人なのだろう。一度試してみればよろしい。我々の道義的良心は非常に簡単に経済的欲望に負けてしまう。少なくとも私の場合はそうだった。それが日本人の標準では無い事を切に希望する。

ともあれ、正月の半ばにこのリムーバブルハードディスクは私の手元に届き、今のところ致命的トラブルも無く機嫌良く動いている。非常に高速で、安定している。ただ、ハードディスクへの書き込み不良が増えてきた。これは以前から出ていたものだが、最近その率が上がったように思う。その原因がアクセラレータにあるのか、リムーバブルハードディスクにあるのか、それともハードディスクそのものにあるのか良く判らない。調査のしようも無いので諦めてそのままにしている。計算機のパーツも長く使っていると、やはり色んな事が起きてくる。そのうえ周辺機器が増えるとなかなか融通が効かない。

そろそろ初めに買ったリムーバブルのメディアのうち2枚を殆ど使い切ろうとしている。スピードや容量などの線形に伸びる要素のあるものに対する要求は、いつでもそれらの現実を超えてしまうと言うのは本当だ。CPUはどれだけ速くなっても遅いと感じるし、ハードディスクはどれだけ大きくなってもまだ足りないと思う。今や私はアクセラレータは68030の33MHzは最低ラインだと感じているし、リムーバブルのメディアは100MByte位の容量で、一枚当たり5000円を切らなければ困ると思っている。技術の進歩がどんなに速くなろうとも、人間の欲望は必ずそれを上回る。我々はいつでも「もっと、もっと」と口をぱくぱくさせている。困ったものだ。

王道への回帰

さて、ここまで書いてからまたかなりの月日が経った。そして私のMacは明らかに安定期に入り、幾つかの問題が解決した。SyquestドライブのINITがアップデートされた。これによってハードディスクの書き込み不良がピタリと止まった。また、マイナーな事であるがDeskWriterのインクが乾いてからは水では流れないものになった。AppleはStyleWriterを発表したが私の推薦するプリンタは今に到ってもこのDeskWriterである。私の過去の判断が間違っていないのは嬉しい限りだ。それからSyquestのカートリッジを3つ再びアメリカに通信販売で申み、再びディスク容量不足は何とかしのげるようになった。この後ステップが非常な安値でカートリッジを売り出したので、結局余り安く上がらなかったのだけれど。

最近、このカートリッジの一つにSystem7.0をインストールしてみたが、アクセラレータ付きの状態ではシステムの何かのリソースを読み込めないと言って立ち上がらない。アクセラレータを(ソフト的に)外すと確かにSystem7.0が走るが、余りの遅さに利用を諦めてしまった。しばらくするとRadiusはSystem7.0対応のROMを出すと発表し、日本パックリムもROMとINITを8千円台でユーザに送ると言い出した。これでSuperDriveも2HDディスクをフォーマット出来るようになる筈だから、結局前回の2万円かかるアップグレードをしないのは正解だったようだ。FAXで申し込んだが、未だROM発表のアナウンスは受けていない。どうしたのだろうか?これが来たらSystem7.0とGomTalk(漢字Talkインストールキット)をインストールしてやろうと思っている。

それから私は職場用にMac Plusを一台買ってしまった。7万5千円で出入りの業者から中古を購入した。40Mbyteのハードディスクを内蔵したアイボリーの日本語版Plusだった。中にファンを入れてあるので発熱の問題はないが、電源が弱いので一晩過ぎると大抵電源スイッチを二度入れてやらないと立ち上がらない。2MByteのメモリが付いていたので迷うことなくSEからメモリ増設の時追い出した256KのSIMMを2枚差し込んで2.5MByteとした。また、外部ドライブが必要なのでSEからSuperDriveと引き替えに追い出した内蔵800Kドライブにケーブルとケースを自作して取り付けた。久し振りにパーツ屋で部品を揃え、深夜にケースをやすりでゴリゴリ削った。配線のためにGuide to the Macinotsh Hardwareというアップルの英文の本をじっくり読む羽目になったがこれもまた楽しい。しかしこの記述に合わせて結線するといきなりイジェクト動作を繰り返してどうにも動かなかったのには冷汗が出た。知り合いの800Kドライブの現物の結線をテスタで当たって正解を見つけたが、後で買ったMaintosh Repair & Upgrade Secretsには正しい記述があった。これに大阪のソフマップで何と9800円で叩き売っていたRapportを取り付けてDOSとのファイル交換を実現している。

パソコンのハードいじり:

私は高校生の時、丁度普及し始めた8bitのパソコンを兄と共同で購入し、その後数年間使った。アメリカのパソコンメーカの名門、コモドールのVIC-1001というマシンで御記憶の方も多かろう。このマシンは非常に単純な構成でソフトからハードまでその殆どを把握できた。逆アセンブルをとことんやって解析したり、回路図を読んだりした。ちょこまかとハードをいじって補器類を付けては小さなグレードアップをして喜んだものだ。質屋で買ってきた電子ピアノの鍵盤が8x8のキーマトリックスなのを良いことに、ここに8bitのラッチを8つ付けて鍵盤に並列接続し、VICからコントロールして自動演奏(伴奏)させたのは面白かった。64ビートの4パート同時進行は1MHzの6502プロセッサによるBASICでは遅すぎて、プログラムは殆ど機械語(アセンブラではない)で書いた。聞き取れないほどのスピードで演奏するかと思っていたのに実際はそんなに速くならず、この古い8bitマシンの能力的限界を思い知った。もっと馬力のあるマシンが必要だと思った。ろくなアセンブラがなくて、バイト数を手で数えてアドレスを記入していたのが懐かしい。

Macintoshを購入したとき私はこのようなマニアックな世界と決別できると考えていた。「こんなに高級なコンピュータを買ったのだから、もう変なことはせずに済むだろう」と言う訳だ。しかしこれは私の判断が間違っていた。基板のパターンを読むことはしなくなったが、必要とあればバラしてテスタを当てることに今は何のためらいもない。どこまで行ってもパソコンはパソコンだ、と諦めがついた。

以上が貧乏な私が道を誤ってMacintoshを買ってしまった事から始まったセコく険しいMacLIFEである。「如何にして安く」が主たる動機であるが、その結果私は様々な経験をすることになった。海外の雑誌の記事や広告を良く見るようになった。日本のメーカーの商品がアメリカでどれほど安く売られ、国内では高い価格設定がなされているかも良く判った。少し前にアメリカでヒステリックに叫ばれたダンピングは表面的には事実なのである。モノクロームのモニタやメモリなどの分野では韓国などのメーカーが日本のメーカーより更に安い価格を付けて市場に食い込んで来ている事を知った。もはやHYUNDAI(現代グループ)、GoldStar(金星グループ)はSONYやCASIOと同じ広告欄で普通に見ることが出来る。そしてこの一年で彼達の製品がモノクロモニタから80386最高速のPC/ATになるのを目にしてきた。アメリカではこのように激しい競争の結果、標準的なパソコン(PC/AT 386/16MHz)が$800辺りで手に入る。安いモデル(PC/AT 286/12MHz 1.2MFD 42MHD)なら$550位だ。物価の差はあろうが、彼の国の方がコンピュータ事情は(特に日本製品の力によって)遥かに恵まれている。

それもこれも我が家のMacが私に与えてくれた情報だ。この小さな9inchのスクリーンの向こうにはまだ私をワクワクさせるものがあるに違い無い。Macを私が使い続ける最大の理由は、私がこれを好きだからだ。そして私が好きなものはMacのソフトでもハードでもない、Macが私に与えてくれる「何か」なのだ。それがインディ・ジョーンズさながらのアドベンチャーへと私を連れて行ってくれる。

海外でのニッポンセイヒン:

日本の製品が海外でどのようにしてどのくらい流通しているかを私は全く知らなかった。その種の情報が必要無いため入ってこなかったのだ。しかしダンピングの反対運動に不当な印象を与えるためにアメリカの商品の品質が悪いことは報道されても、何故EPSONのIBM PCコンパチが非常に安い事は報道されないのか?日本のメーカーの意欲的な商品が国内では売られていないことも知った。NECはPC-Engineに使われたポータブルなCD-ROMドライブのSCSI版をアメリカではさっさと売っておいて、何故かなり長い間、国内で売らなかったのか?UltraLightは?富士通アメリカは3.5inchの優秀なフロッピードライブを非常な安価で提供しているにも拘らず、FMRが非常に長い間5inchに固執したのは何故か?シャープがアメリカで売っている9600bpsのモデムは何時になったら国内に出回るのか?プリンタなど周辺機器やPC/AT互換機ではアッと驚く安値で日本製品が世界市場を席巻している。なのに我々はそれを知らず、やれ互換性がどうだ純正品がどうしたと言っては国内の僅かのメーカーの事しか頭に無い。我々には「おらが村の大将になりたい」癖があるのか?

時代は流れる、僕も流れる

追記(92.8)

さて、前出の文章を書いてから、もう一年半近く過ぎた。それから様々なことが私の周りで起きた。まずラディウスからROMが到着した。日本パックリムはRadiusのサポートをやめ、新しく出来たRadius日本代理店「ラディウス」からサービスを受けたわけだ。これでSystem7 + GomTalkによる環境を載せることに成功したが、勿論余りの遅さに実用で使うのは諦めた。

続いてPlusにアクセラレータを付けた。何と3万円で売っているBrainStormという凄い奴である。何が凄いとって名前も凄いが構造も凄い。元のCPUの上にソケットをじかに半田付けして、そこに16MHzの68000を載せる。クロックはメインボードの近所から16MHz(つまりまだ分周する前)を空中配線で取ってくる。これで16MHzが直接ロジックボード上に流れて、全体としてほぼ完全に倍速になっていると言う訳だ。当然RAMも100ns以上のものでないと受け付けない。オーバーヒートさせずにソケットを付けるために、一時間以上を費やして(それこそ涙を流しながら)64箇所の半田付けをやった。

更にどうせ電源がもたなくなるだろうと予想して内蔵のハードディスクを外に出し、自作のケースに詰め直した。Plus内部の熱も気になるのでファンを内蔵させた。こうして以前より安定したうえに倍速になって生まれ変わったBrainStorm Plusとなった訳である。

こういう改造をしたときは、最初に電源を入れるときに独特の「どきどき」を味わえる。こればかりはやった人でないと判らないだろう。しかしこうしてしばらく使っていたこのPlusを僕は何と売り飛ばしてしまったのだ。加速してからおよそ一年後に、7万5千円で知合いに改造ディスクごと売ってしまった。貧乏症の私がPlusを売るには理由が有る。何とIIfxを買ってしまったのだ。IIfxは92年の冬に生産が停止となり、しばらくして某通信販売店で399000円で叩き売りに出された。Quadra700がまだ高い頃で、何よりIIfxが好きな私はこれに飛びついた。

4MB/80MBという最小構成で売られていたIIfxに、Internetの個人売買を利用して入手したPLI fastSCSI2ボードとRastorOPS264を取り付け、それからこれまた通信販売で購入したソニーのマルチスキャンモニタGVM1411を加えた。ちびちびSEから一気にフルカラーの世界へ突入である。OSもSystem7 + GomTalkから漢字Talk7へと代わり、QuickTime1.5を利用して結構高速なムービーが見られるようになった。もう2年も前にApple Center肥後橋の開店記念売りだしに9800円で購入したMicroTVでテレビも見ることが出来る。また知合いから何とVideoSpigotを借りることが出来、自分でMovieを作って遊べる。また、購入を記念してMorphを購入し、いきなりMorphingを楽しんでいる。

IIfxにはNuBusスロットが6本も付いているが、現在その全てが埋まっている。職場の事務用に使っているので職場で購入したものが追加されて、Ethernet, Apple 8bit video, RastorOPS264, PLI fastSCSI2, MicroTV, VideoSpigotという顔ぶれである。これにApple PortraitとGVM1411が接続されてデュアルモニタで利用している。他にもHDとして200MB, 5.25inch MO, CD-ROM, Syquest44MB更に時々GT4000カラースキャナを接続するのでSCSIもほぼ満席状態である。IIfxもこれだけ繋いでやれば本望だろう。

海外でのニッポンセイヒンその後:

何と状況はずいぶん変わり、CPUは486へ進化し、それと共にアメリカから日本製のPC/AT互換機はほぼ追い出されてしまった。追い出した主は予想どうり韓国、台湾製PC/ATである。SamSung, Hyndaiのブランドでこそないが、Compaq, DELL, Mytacなどアメリカ製品は全て韓国、台湾工場で作られている。勿論ノーブランドの韓国、台湾部品はロジックボードも含めて市場に溢れており、完全にこれらが日本製互換機に置き変わった観がある。 国内メーカーもこれらの製品が侵入しているのを黙って見ていられず、結局大幅な値引き及びPC/ATアーキテクチャへの移行を余儀なくされている。

追記(’94.1)

さて、再び時間は一年半を経過した。あれからまた少しだが変化が起きた。まず IIfx にディスクが付いた。アメリカの販売店から10万円近くで512MBの富士通製を購入し、内蔵させたのだ。これによってIIfxから追い出された80MB Quantum 80 LPSは SE に移動し、これまた無理やり内蔵させられてしまった。これによって今まで長らく働いてくれていたTOMATOディスクの35msシークに足を引かれることが無くなり、SEのスループットが若干上がったのは嬉しい。

それからIIfxもさっさと加速されてしまった。本当はアクセラレータが欲しいところなのだが、68040アクセラレータがどんなに市場に出回ってもやはりIIfx用はマイナーな存在である。唯一TOKAMAC IIfx 040/40MHzがあるが、これは日本の販売店から買うと30万円近くする代物で、ちょっと手が出ない。あとはRadius Rocketであり、これは安価だがせいぜい33MHzと低速である。結局中途半端で気に入ったものがなく、何と水晶発信子の交換によるクロックアップを行った。現在 50MHz で動作している。但し68030は基本周波数の倍数のクロックを外部から供給する必要があるので、100MHzの水晶を買うことになる。これが民生品ではまず存在しないもので、仕方なくNIFTYで同じくクロックアップをした人の情報をたどって店を探した。コスト的には一万円弱と高価であるが、障害も少なく確実にスピードアップすると言うことで決めた。ちなみに一万円程度で110MHz,120MHz などもあるようだが試していない。互換性は殆ど問題ないが、SoundManager3.0でちょっと音がおかしくなる。また、Apple DiskCopy4.2がおかしくなった。

それからメモリを追加して 32MB 構成とした。メモリはInternetの個人売買で中古のものを16MBずつ$450辺りで別々に購入した。合計10万円程度である。最後におまけでPro Audio System という16bit/44KHz stereoで録音再生の出来るNuBUSボードを購入した。これとSoundEdit Proの組み合せでうまく音が扱えるはず。このボードにはMIDIのチップも載っているのだけれど、これを使うドライバが付いていない。

さて、私のホームマシン、SEについては大きな変化がある。遂にアクセラレータを更改したのだ。今までのRadius SE 16ではマックライトなどによる日本語ワープロの動作が遅くなってきたので、主目的は速度向上である。いろいろ選択肢はあったと思うが丁度新しく出たTranswarp 1340cを買った。68030+68882/40MHz 128Kcacheと言う構成で$560と安価である。この価格ながらRAMはアクセラレータボード上に載せ、DRAMの速度にあわせてアクセスタイムを設定できる。一応16MBまでのメモリ拡張も可能と言うことで、この性能、機能でこの価格はよしと踏んで発注した。現在その環境でメモリは4MB構成のままで原稿を書いているが漢字Talk6でのワープロ作業に関しては全くストレスがなくなった。一部のアプリケーションはスクロールなどの速度が上がりすぎて逆に扱いにくくなる程だ。音も普通のものは割れない。当然一部のゲームは音割れするが、これはまあ仕方がない。ただSoundEditが音割れするのは残念だった。

ドキュメントによるとAppleFileExchenge, AppleDiskCopy4.2は動作しないとあるが、実際にはAFEは全く問題無く働くし、DiskCopyはキャッシュさえ外せば問題無いようだ。試しに16MBメモリ構成で試してみたが、マニュアルにある通りアプリケーションヒープが4MB以上取れないとか、メモリの取り方が少しおかしいとか問題はあるが、使えないことはない。しかし1340cについているCPUは680EC30であり、すなわちMMUが付いていない。だから原理的にConnectixのCompact Virtualによる16MBメモリモデルへの移行は不可能となる。Applied Engineeringがメモリ管理をうまくするようにinitを直してくれることを期待するしかない。ただ、試しに入れてみた英語版System7.0でも比較的快適に動作するので、とりあえず漢字Talk7への移行を考えてもいいかも知れない。最終的に私の中でこのアクセラレータを選んだ結果が出るのはもうしばらく先のことだろう。

海外でのニッポンセイヒンそのまたその後:

予想どうり国内でPC/AT互換機の嵐が吹き荒れている。マニアックな人はPC/ATによるPC Unixへと移行しつつある。僕の手元でもOS/2 2.0 , Windows NT , NeXTSTEP for Intel processorはPC/AT上でテストしている。しかし予想をくつがえして韓国、台湾製品の派手なカタログが米国の雑誌から消えつつある。代わりに米国らしき会社の名前で製品が並んでいる。米国の製造業の常として、工場はアジアであろうと思われるがそれが余り表に出ていない。少し前は韓国バッシングともいえる事をやっていた。

もう一つ予想をくつがえして国内でMacが良く売れている。理由は速いペースの新製品ラッシュによる旧製品の値崩れなどである。つまり安くなったのだ。特にエントリモデルが安い。米国との値段格差は殆どなくなった。

追記(1994.5)

あれから数カ月しか経っていないが遂にMacintoshにも大きな変化が起きた。プロセッサアーキテクチャの更改、つまりPowerMacの発売である。過去にAppleは非常に強い力でサードベンダーの開発環境をコントロールしてきた。これによってMotolora 68000 から 68020 への移行に伴う 32bit システムへの移行、Color QuickDraw, Multisize screen など主要ソフトウェアの大改造、System7 で採用した 32bit addressing へのプログラム環境の移行などをコントロールし、成功させてきた。これらが実績となり、今ではデベロッパはますますAppleのガイドラインを守るようになっている。この状況の中、PowerPCへのアーキテクチャ移行を行ったのだ。勿論まだまだエミュレート技術で実行している段階だが、今後 Native code に移行して行くだろう。

何よりAppleとIBMはPowerPCに関しては非常にうまくマーケティングを行い、業界ではこの移行に対してネガティブな話を殆ど聞かない。ジョブスなら絶対こんなにうまくやらない。彼なら突然発表して一週間で1万台の予約をとって二カ月後にアナリストから一斉に叩かれるくらい素晴らしいデビューをさせてくれるだろう。Appleはこんなにも成功してしまったのだと思う。その上 Apple は先日以来 IBM やあちこちのメーカとOSのライセンス契約をしている。遂にOSの切り売りをするメーカになってしまった。これからどうなる事やら。

業界話は良いとして、私個人にとっては非常に大きな事件が起きた。SE用に買ったTransWarpアクセラレータのメーカ、Applied Engineering が倒産したのだ。AEはApple II の頃からAppleを支えてきたサードパーティの一つだそうで、私が知っている限りでもSCSIにつなぐ FDHD SuperDrive などマニア受けしそうないわゆる隙間商品をいくらか作っていた。今後のサポートが無くなってしまうわけで、非常に残念だ。

アクセラレータは高価で、なかなか機種変更をしないMacintoshの寿命を更に伸ばすための有効な手段として Macintosh の世界では重要な分野だった。しかしこの頃の Macintosh の低価格化と頻繁な機種変更のせいでアクセラレータメーカが生き残ることはかなり難しくなっていたようだ。Doveはさっさとアクセラレータ市場から撤退してしまったし、Novyは半年前くらいに倒産した。(OEM供給は続けているようだが。)古くから 9inch スクリーンの Macintosh をサポートし、128K すらサポート対象として常に市場最高速の処理系を実装してきた Gemini シリーズのTotal Systems もAEとほぼ同時期に倒産した。結局 MacII 以降のモジュラータイプを主としてサポートしてきた3社、つまり TurboCache , PowerCache の DayStarと、Rocket のRadius 、TokaMac だけが現在生き残っている。(実はUniversal TurboCache にはSE用のアダプタもある事はある。)

遂にコンパクトMacの時代は本当に終ってしまったようで、詰まらない時代になってしまったなと実感した。

IIfx の方は遂に念願かなって RastorOPS24STV を購入した。Internet の中古販売で $400 だったが、相手はPLI fastSCSI2ボードとRastorOPS264を購入したAlexander Steireである。ただ24STVはちょっと不都合があって、少々使い込まれた結果 RCA ジャックのアース側の接点が基板から剥がれていたようだ。自力で半田付けし直して対処したが、その旨をAlexに書いて、少々のクレームと共に送り付けた。しかしいまだに返事がこない。今まで使っていた RastorOPS264 はこれで不要になったので、職場の人に1万円で売り渡してしまった。

とにかくその後はMacRecorderを用いた音声取込みが少々おかしいのだが、それを除くと正しく動いていて、新しい MediaGrabber でMovie取込みもちゃんと働く。ただ 10fps 位の速度で 160x120 サイズを取り込もうと思ったらどうしてもメモリに書き込ませる必要がある。そのことを考慮して用意しておいた32MBメモリなのであったが、どうしようもなく短い時間で使い切ってしまう。そういう意味では Video Spigotの方が向いているなと思う。これを回避するためにとにかくRAM Doubler を試してみようかと思っている。しかし良く考えてみたらVideo Spigotはもう2年も借りっぱなしだ。どうしようか、、、

Video Spigotを外したので、ようやく IIfx のスロットが一つ空いた。現在 ASante Ethernet , fastSCSI2 , 8.24 video , 24STV , PAS16 というラインアップである。PAS16 が殆ど生きていないのが悲しい。24STVと組み合せてのステレオ録音を試してみたい。

そして、これから

追記:(1994.10)

以上が今のところの僕の MacLife である。長い期間にわたって思い付いた時に書きためて来たものであるが、今読み返しても非常に貧乏だなあと感じる。 ともあれ、これからもまだ僕はしばらく Macintosh を使い続けそうだ。もうあの頃の魅力はなくなってしまったけれど、実用マシンとしてはこれにかなう物はない。いつかまたドキドキするような何かに出会って、自分のコンピュータ生活をそいつに預けてみたいと思う時が来るかも知れない。その時はまた、1988年に僕が Mac でそうしたように、新しい世界に飛び込んでやろうと思っている。それまでは今しばらくお付き合いしなくては。

この原稿もそれまでは終る事はない。



Yutaka Yasuda

1991.12.00 (unknown)