どうしてそうなるのだろうか?何がどう使いにくいのだろう。「コンピュータって何をしてくれるか良く判んないから困っちゃう」などと言う声も聞く。我々の身の周りにある他のキカイとどこがどう違うのだろう。
そこで非常に普及した電子機器の代表としてFAXの登場である。FAXに関しては「どうしてFAXと言うものはこんなに使いにくいんだ」と言う不評を余り聞かない。逆にFAXはもう市民権を得てしまっているから、今更「FAXってのはどうも苦手だなあ」とは言いにくいのかも知れない。そんな事を口にしたら、あなたの周りからOLはサササッと身を引き、その日からもうあなたは「頭のカタイ流行遅れのオジサン」の仲間入りをさせられるに違い無いのだ。
まあ冗談はこれ位にして、実際FAXと言うのは便利だ。そして使いにくいものではない。原稿を送るときは紙を差し込んでダイヤルするだけで済み、FAXを受ける時に至っては黙っていれば勝手に受信して原稿がベロンと出来上っている。使う人はFAXが何をしてくれるもので、その為には自分がどう操作しなければいけないかを「大体」知っている。それだけで充分うまく働く。
「機能は絞り込まれ、それが形になって表に現れる。その顔で使う人を待ち、人の期待通りに働く。」これが成熟した製品と言うものだ。現在のコンピュータはこうなっていない。何故だろうか?コンピュータ擁護派はこう言うか?「コンピュータは今までの単機能機器とは違って汎用性(何でも出来る)が特徴なんだ。FAX風情と較べて貰っちゃあ困る。」しかしこの答は明らかに間違っている。正しくは、こうだ。「コンピュータは半製品だからFAXみたいな完成品と直接較べるのは筋違いだよ。」
今のコンピュータと較べるならFAXやコピー機、電子レンジなどとでは無く、エンジン(あの騒音を立てて軸を回す鉄の塊)とがよろしい。エンジンは「軸を回す」事しか能が無いが、これを「力を与えてくれるもの」ととらえて応用する事で無限の可能性、即ち汎用性を示す。コンピュータもこれに等しい。「計算する力を与えてくれる」エンジンだ。この「力」を何かに応用して我々の役に立てるのだ。「計算する力」と言ってもピンと来ないだろうが、その事についてはここでは言及しない。その代わりにこの力を使った応用製品を挙げる。ファミコン、CDプレーヤ、電子レンジ、多機能電話。そしてタネを明かせばFAXもそうだ。これらの製品は全て小さなコンピュータを内蔵している。どれも利用目的は明らかに限定されていて、それ故に使いやすい。電子レンジで御飯やホウレンソウを「チン」している時に自分はコンピュータを使っていると感じている人は居ないだろう。しかしこれこそがコンピュータの正しい使い方だ。あなたは現在の使いにくい半完成品コンピュータを「生のまま」苦労して使う必要は無い。あなたの目的に合った機能を持った完成品が登場して来るのをほんの暫く待てば良いのだ。エンジンを回す為に手を油で汚してまで苦労する事は無い。いつか鍵をひとひねりすればちゃんと回るエンジンが手に入る時が来る。(但しビジネスでは話が逆転する。それを待たずに苦労して実行するところに求める利益があるのだから。)ところである製品が「完成した」と、何をもって判定すれば良いのか?僕は「そのオリジナルの作者には思いも付かない使い方によって製品が普及した時」だと思っている。
電子レンジを作った人は、それでしけったおかきを乾かす主婦の姿を想像出来ただろうか?
自動車の場合はもっと凄い。今や最も典型的な自動車の使い途は、それで「女の子を誘う」事だ。荷物を運ぶのも、遠くへ行くのも、クルマの目的の二次的なものでしかない。女の子を誘う事こそが真の目的なのだ。(僕の認識は歪んでいるだろうか?いいや歪んではいない!)この時代のクルマの価値はもはやエンジンや車体の優秀さには無く、「ブランド(メーカー、車種)」や「カーステレオ」にある。「オレのクルマは500馬力のV型10気筒だぜェ」といくら言ったって日野のレンジャー(トラック)では女の子は誘えないのだ。
エンジンを作った人は、それを台車に載んで走らせる事は考えても、よもやそれが女の子を誘うための必須アイテムになるとは思いもしなかっただろう。クルマは実に「高級な」「完成した」使い方をされるまでに進化したと言える。コンピュータもこうならなくては駄目だ。僕は「完成の域」に達していないコンピュータを使う必要は無いと言った。もう少し待てばよろしい。
コンピュータで女の子が誘えるようになるその日まで、あなたはただ待てば良いのだ。
'91.5 Yasu.