はじまりは順調に

何とか我が家に到着したMacは、これから苦難の道のりを歩むことになる。半年の間、私はMacを何も増設せずにそのまま使った。1MByte RAMと二枚の800KByteフロッピーディスクだけで英語環境のHyperCardと、EGWord3.0を漢字Talk2.0の上で走らせていた。メモリとディスクの容量を極端にケチって使い続けた。その半年間に色々なプロダクトを試し、雑誌を買いあさり、とにかく情報を仕入れた。その結果、Macは投資の対象だ、そうしないとうまく働かないんだ、と考えてまずハードディスクを購入した。40MByteで当時最も安い15万円の物だった。ドライブはSeagate製だった。それから数カ月して今度はメモリを買って2.5MByteに増設した。この時も最も安いPACIFIC WAVESから2MByteを5万円ほどで購入した。当然アップ作業は自分でやらないと駄目だったので一緒にMacをこじ開ける道具付きのドライバーを買った。この時初めてMacの蓋を開けた。ボディの裏側の開発者のサインを見て面白がった記憶がある。

SEの基板:
私のSEは基板のレイアウトが新たに変更されたモデルだったので英文のオーナーズマニュアルの記述と一致していない。メモリ種類識別の抵抗はジャンパスイッチだったし、SIMMソケットの順番が違っていた。ジャンパスイッチについてはすぐ判ったが、SIMMソケットの件は最初は知らずに1MBと256kBのSIMMをあべこべに差し込んだ。電源を入れたら画面が縞々になって立ち上がらなくて冷汗をかいた。この事についてはMacLIFEの1989年5月号のQ&Aコーナに正解が記載されている。

こうしてようやく「他人並み(ひとなみ)」の構成になった私のMacの為に私はMacVJEとMacWORD、それにMacRecorderを購入した。この時MacVJEに付いてきた漢字Talk2.0と日本語システムのお蔭で、ようやく私は「日本語正規ユーザー」となった。(このような種類の人をアップルジャパンは正規ユーザーとは認めていないが、それならば私の知り合いのようにベージュのMac Plusを買った場合はどうなるのか?彼は日本語システムと漢字TalkをEGWord3.0のバンドルから取得している。それ以前には漢字Talk1.0とカナ版のマックペイントとマックライトを使っていた。これでも彼は日本語「不正規」ユーザーか?)

このうちMacVJEは今でも使っているが、MacWORDは出た最初に購入して、一度試してみて、その余りの遅さに辟易して以後全く使用していない。私の周りのMacユーザの全てに自信をもって購入リストから除外することを勧めている。MacWORDがVJEと同じメーカーが作ったとはとても思えない。非常に遅い。バグがある。爆弾が出る。(このメーカが出す製品で私が使ったものは、そのほとんどがβ版のように完成度が低いか、あるいは全く使い物にならないかのどちらかだ。この数少ない例外がMacVJEと古い版のMacTEXTだ。この会社の他の(まだ私が試したことの無い)製品に期待するつもりは、もはや全く無い。)周囲にはMacWORDは駄目だよ、と忠告している。幾つかの雑誌がMacWORDを紹介したが、いずれも使い物にならないと言う評価を下してはいない。何故だ?

どんどんと私の投資は増えて行き、次にはフロッピーの一台をSuperDrive(2HD)にアップグレードした。これは殆どやった人が居ない位マイナーなアップグレードで本来はSEをSE/30にアップする為のサービスの一部だった。しかし私は将来を見越してメディアの互換性を確保したかったのと、DOSの文書を扱いたかったので思い切って8万円投資することにした。ドライブよりもむしろSWIM(新しいディスクコントローラカスタムチップ)と新しいROMが欲しかったと言って良い。こうしておけば将来DOS Mounterの様なものが非常に普及して一般的になっても、ついて行けるだろうと考えた。

更に暫くしてからモデムを購入した。それ以前から借り物の1200bpsのモデムで近所の草の根BBSに参加していたが、ダウンロードのスピードのために2400bps/MNP4のオムロン製ポケットモデムを購入した。丁度2400bpsが普及し始めた頃で、購入価格は3万8千円だった。

続いてプリンタを購入することにした。学生の頃使っていたレーザプリンタの影響もあって、意地でもカットシートが使いたかった。ただドットインパクトの遅さとうるささにはウンザリしていたので、当時人気が出始めていた水性インクジェットのDeskWriterをAppleTalk対応になった直後に15万円強で購入した。日本橋で最も安いソフマップで並行輸入版のものだった。115ボルト用だから立ち上げのときに電圧不足で時々うまく働かないと他の店では言われたが、ちゃんと100ボルト用のトランスが付いてきていて現在まで何の問題もない。

モデム:
私が買ってからもうかなり時間が経ったが、まだ速度が余り上がらない。個人がモデムのような第3の周辺機器に掛けられる金額は5万円程度なので、これを下回る価格が付くまでは2400bps以上の製品は普及しないと考えている。その点現在の高速モデムはまだ「一般品」ではなく、一部フリークの為のものだ。私がこの時点で2400bps/MNP4のポケットモデムを選んだのは、これ以上価格は(そう大きくは)下降しないタイミングだったからだ。しかし2年以内に速度は次世代に移るだろうと考えていたので、それからのセカンド・モデムとしての再利用価値を残しておくためにポケット型を選んだ。移動可能なら例えば人の家にトラブル原因切り分けの時に持って行くときなど便利だ。実際そうして運んだことが数回ある。一世代前の遅いだけのボックスモデムなど利用価値はどこにもない。ところでMNPであるが、Class4がお勧めだ。Class5ではデータ圧縮をするために見かけ上高速になると言われているが、私と友人Kがオムロン製の同じMNP5モデムを直結して試してみたが、Class4接続の時とClass5接続の時で転送時間は全く変わらなかった。Class5はただ高いだけだ。MNPで重要なのは誤り訂正機能だけだと考えている。これはたしかClass3でサポートされたのではなかったかと思うが、そのような製品はないので現在はMNPはClass4が良い。

プリンタ:
現在のところ個人が自室で使うプリンタはインクジェット以外無いと思っている。低消費電力、高速、高解像度、夜でも平気でプリントできる静粛性はインクジェット以外では実現できていない。レーザプリンタが個人ユーザレベルの価格になってきたなどと雑誌は言うが、700ワット以上もの容量を自室から取れる人はそう多くない。冬に電気ストーブを使うマンション暮しの人はブレーカがいつ飛ぶかびくびくしなければならない。これは熱によるトナー固定をしている限りしばらく逃げられないだろう。ドットインパクトのシリアルプリンタなど、うるさくて夜間全く使用できない上に解像度の点で将来は無いと言える。熱転写プリンタが良いと言う人もいるが、これは非常に遅い。だから折角買ったプリンタも積極的に使おうと言う気力が湧かない。これは余りにもったいない。非常に綺麗な出力が速く得られるからどんどん使う気になる、こうでないといけない。現在のところ問答無用でおすすめプリンタはこのDeskWriterだ。私の要求する局面では水性インクであることとハイパーカードで文字が綺麗にプリント出来無い(スクリーンフォントとプリンタフォントの置き換えが出来ず、画面ハードコピーにしかならない)事を除けば欠点はない。

これで息が切れてしまい、それ以降しばらく大きな投資はしなかった。漢字Talk6.04アップグレードをしたのとスタックマガジン社のスタック雑誌を契約した事くらいだ。つまり私は日本語システムの「正規」ユーザになったのだ。これは数千円で日本語システムのユーザ再登録及び漢字Talk6.04の販売を行うと言うアップルジャパンにしてはえらくまじめなサービスに乗った結果である。そのすぐ後、再び数千円で漢字Talk6.07へのアップグレードの案内が来て憤慨したが、これも申し込んだ。


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