ユーザのコンテクストをフォローする

WWDC の Keynote で思うことは、ユーザのコンテクストをフォローする、という当たり前のことがようやく形になってきた、ということかな。

WWDC2014 の Keynote で Continuity としてあがっていたのはデバイス間のアプリ連携、ではない。これらは「複数のデバイスを利用する一人のユーザ」のコンテクストをデバイス間でフォローするためのものだ。そのためにはデバイス(をまたいだアプリ)の間で、ユーザの振るまい、つまりアプリのステートを共有しなければならない。AirDrop の iOS/Mac 連携もデバイス間のデータ連係、ではなく、そのための一部だと思うのが良い。

昔、コンパウンド・ドキュメント、というアイディアがあった。ユーザの最初の過ちは間違ったアプリを選んでしまうことだ、データがアプリケーションに閉じ込められているのは正しくない、ユーザがアプリの壁に阻まれて一度そのアプリで作業を始めたらアプリの城壁を越えることができないのは不自由だ、といったことだった。 Apple の OpenDoc, HP の NewWave, TRON など、多くのアプローチがあったけれど、それが普通になることはなく、相変わらずユーザとデータはアプリの壁に囲まれている。(サイロに入ってる、と表現する人も居る。)

Apple が Mac で採った標準データフォーマット(とそれを利用したアプリ間のコピー&ペースト)は一つの対症療法的解決であり、ともかくそれは普通のものになった。それでもまだアプリの壁は高い。

(iOS は従来(恐らくは)安全性を優先してアプリ間連携を制限してきた。今回アプリ間連携が単純な(80年代Mac的)データ受け渡しではなく、アプリケーションの機能呼び出しのように見えるのは嬉しいことだ。アプリのステートを維持・交換できるから。)

昔、複数の人間が一つのコンピュータを共用した。しかし今は複数のコンピュータを一人の人間が占有する。これが新しい城壁、デバイスの壁、を作り上げてしまう前に、デバイスを跨いだアプリ間連携に進まなくては。その連携はデータの連係では無い。ユーザのコンテクスト、つまり「今このユーザは何をしていたか」を複数のデバイスが「一つのチームとしてフォローする」連携でなくては。User Centric Computing あるいは User Context Centric Computing と呼べるようでなくては。

今回紹介されたアプリ間あるいはデバイス間連携の話が、このゴールに向けてまっすぐ歩けるようになっていますように。。。



Yutaka Yasuda

2014.06.03