GoogleによるNest買収について少し考えてみる

その目的は電力インフラだと思うのだけれど、違うのだろうか。

http://jp.techcrunch.com/2014/01/14/20140113google-just-bought-connected-device-company-nest-for-3-2b-in-cash/
Google、スマート・サーモスタットなどインターネット接続家庭用品のNestを32億ドルのキャッシュで買収
TechCrunch Japan

まず僕は買収の目的の第一は電力インフラだと思うのだけれど、違うのだろうか。そういう記事がパッとみつからないけど、そこだけが気になってる。

というのも、(個人が)Nest という製品を買うとミクロに家庭のエアコンを(ユーザが)コントロールできるようになるわけだけれど、(Google が)Nest という会社を買うと電力網(Grid)全体での電力消費を(Googleが)コントロールできるようになる、と、まず最初に思ってしまうからだ。

家によって保温性、暖房能力その他は全部違うわけなので、それぞれのデータを取って、地域ごとの気象データと対照しつつコントロールすれば、地域の全てのユーザの快適度と地域の電力消費パターンを最適化できるではないか。
(両者、つまり快適度の最大化と電力消費の最小化を両立させることは出来ないのだから、最適化が唯一の道であるはず)

Google は今後、これと良く似た部分を持つ(共通性の無い部分ももちろんあるけど)電力消費最適化を、彼らのデータセンターとユーザのネットワーク利用を対象にやらなければならない。(既にやっていて、これから更にアグレッシブにやらなければならない。)
つまり一般にデータセンターは「ひたすら節電」が話題にあがるけれど、話は結局「ただ減らす」のではなく「最適化」に落ち着くはずだ。(研究ではそういうものが幾らもある)

人類にとって、コンピュータ利用(データセンター利用)は自分達のエネルギー計画のかなり大きな部分を担うことになる。注意すべきは、これがソフトウェアによる調整可能幅が最も大きな「部分」だ、ってことだ。
すると極端な話、電力消費にマージンが少ない条件下で、限られた電力を検索に回すかエアコンに回すか、調整できるようになるって話はとてもとてもグッと来る。そういう記事が無いのは何故だ。僕は外しているのか。

ところでスマートグリッドって話はなんというか流行りを過ぎたような感じがするけれど、あれは供給網をどうにかするという話だったように僕には見えていた。違うんだろうか。
でも実際に調整すべきは(プログラムすべきは)消費だと思うんだけど、それってスマートグリッドの話の真ん中にちゃんとあり続けてるんだろうか。
つまり Google が前にやっていた Smart Meter は「ひたすら節電」的な印象があるのだけれど違うんだろうか。あれは消費をモニタリングすることは出来るけれど、消費をプログラムすることとは(話の筋が)違う、という印象がある。

また、Google が Smart Grid の話によくあがってきたときに、電気自動車のバッテリをグリッド(供給網)の一部に、という話があった。でも CES の会場で Panasonic のその種の人(なお米国スタッフ)に聞いてみたら、彼は「この高価な電池を犠牲にしてそんな事をやる人は居ない」と言った。つまりユーザの側にやる動機はない。あるとすればそれは電力供給側だけだろう、と思える。

つまり、この件の問いはこうあるべきだ。
供給マージンがクリティカルな条件で、それを緩和するバッファが手に入るとしたら、彼ら(供給側)は幾らまで出せるんだろう。

つまり Google は Nest によって「電力消費」をプログラミングできるようになり、それによるコントロールは「ミクロなデータをかき集めて統計分析し、マクロな最適化を掛ける」という Google の専門分野そのものだ、というのが今の僕の印象。
だから Nest を買った、と。

「ミクロなデータをかき集めて統計分析し、マクロな最適化を試みる」こと、つまり「データとコードが世界を最適化する」場こそ Google の主戦場だ。
僕の頭の中ではあの懐かしいオッサンの声がリフレインしてる。
“Google がやらねば誰がやる”
(1sec)
“Google がやらねば だ れ が やる”

(オチがオッサン過ぎた。。)

ところでこんな記事があった。(1/17 の昼の記事)

http://japan.zdnet.com/cio/sp_12mikunitaiyoh/35042658/
アルゴリズムとセンサと–グーグルのNest買収をめぐって
japan.zdnet.com

これ、僕にとってはとてもしっくりくる説明、つまりグッとくる記事だ。この記事では(他の記事で少し話題にあがった Nest 在籍のロボット系エンジニアのことにも触れているが)人についてはサラッと通り過ぎて、買ったのはアルゴリズムとしている。
つまり買収の目的と額の根拠として Nest Energy Services をとりあげている。

“電力消費量がピークを迎えそうになった時に、Nestのサーモスタットを使ってユーザーの家庭の消費量を自動的に抑え、それで電力会社側が節約できたコストの一部をユーザーとNestが山分けする、というもの”

で、僕がこの一連の書き込みで主として取り上げた話のひとつそのままだ。(*1) ああ、最初からやってたのね(*2)。

*1 「供給マージンがクリティカルな条件で、それを緩和するバッファが手に入るとしたら、彼らは幾らまで出せるんだろう」と僕は書いたが Nest のプログラムでは一軒あたり年間数十ドルということらしい。結構でかい。もちろん自動車のバッテリーを pay するものでは無い。
*2 ひょっとしたら僕は過去に Energy Services について読んでたのかも知れない。余りに同じアイディアだ。まあ理詰めで行くと誰でもそう考えるか。

今まで僕が見た範囲ではこの記事が一番グッとくる記事だった。理屈がちゃんとしてる。
勿論僕がここで書いた「電力消費を(自分たちに都合の良いように)プログラムする」ことについては何も無い。僕の妄想だからね。もちろん書いてないことにホッとしたんだけど。



Yutaka Yasuda

2014.04.15