アプリケーション別従量課金?

従量課金の話は何故か常にアプリケーション別課金システムとセットで現れる。当然それはインターネットにおいてはうまく機能しない。

Software Design の 2004.5 号で「インターネットトラフィック」と題した記事が載った。珍しいことに従量課金の話が出ていて非常に驚いた。

文脈としては基幹部分がパンクしそうだ、ということを背景に、従量課金を望む電話屋さん的発想のビジネスマン(?)と、インターネット的発想のエンジニア(?)との対話である。

なかなか典型的なネット従量課金関連の話が出ているので幾らか書き留めておきたい。

エンジニア氏は ADSL が定額だからだらだら Web をながめている、と言っているが、それは恐らく「低額だから」の意味だろう。従量課金になったら今のようにだらだら見ることができない、というわけではない。定額である必要はなく、重要なのはむしろ低額であることだ。電気代は従量制だが、恐らくエンジニア氏も僕と同じようにテレビはだらだら見ていることだろう。必要なくても隣の部屋の電灯は付けっぱなしになっているに違いない。しかし 100Gbyte のデータを意味なくだらだら転送されては困る。用もないのに各家庭が全部屋を電気ストーブで暖房されては困るのだ。

電話屋の夢として語られている従量課金はどうやらアプリケーションごとの End to End 課金のことを指しているようだ。これはエンジニア氏の指摘が正しく、インターネットの特質を無視した乱暴な提案で、うまく機能しない。HTTP の方が SMTP より安ければ、皆 Webmail を使うだろうし、きっと翌日には SMTP over HTTP ができあがっている。HTTPS (SSL) VPN によるトンネル利用者が増えて話はそこでおしまいとなるだろう。

従量課金はいつもアプリケーション別課金と共に語られ、このように否定される経路をたどる。昔からこれだけは変わらない。

僕がずっと考え続けているのは単に bit 転送量に基づいた従量課金だ。それも End と End で行うのではなく、すぐ隣(1 hop)の転送先とやりとりするものだ。エンドユーザは接続先の ISP と、互いのルータの間で交わされた bit の量についてだけ課金すれば良い。ISP は相互接続している ISP どうしで課金(ないしは相殺)すれば良い。それより上のところではもっとパラメタや力関係で計算方式が変わるだろう。これについては『bit従量課金』で 2001 年に書いた時から変わらない。とにかく網はトラフィックを追いかけたりせず、課金システムはシンプルでなければならない。そうでなければ電話より遙かに複雑な課金のための情報追跡とルール標準化の罠にはまる。

当時はほとんどなかった P2P も、bit 従量課金の強い味方だ。より近い(安い)ところからローカルにデータを取得することができる可能性がぐっと上がるからだ。コンテンツ課金がしっかりしている限り、隣の奥さんから番組のデータを貰うことは非常に良いことだ。このことも『隣組的番組購入計画』で 2001 年に書いたときから変わらない。



Yutaka Yasuda

2004.04.22