カメラサーファー

ブロードバンド革命と言うが、そこで提供される番組の中身はどう変わるのだろう。

ブロードバンド革命が起きたら、とここのところ良く聞くが、その続きが振るわない。曰く「画質の問題はなくなります」と。そんなことは分かってる。質的な問題が未来においても解決できないなどと誰がいまどき考えるだろう。僕らは毎年少しずつ技術が品質を上げていくのを見てきている。「たくさんのチャンネルが見られます」というのも詰まらない話だ。どうせ僕が見るチャンネルは同時に一つだけだ。それより提供される番組の内容はどう変わるのだろう。

例えばサッカー中継はこのくらいは変わるだろうか?

F1レースに車載カメラがついたときはそうならなかったのに、サッカー中継に審判カメラや選手カメラがつくようになって以来、カメラサーファーが大モテだ。
今ではフィールド上の審判、選手、ボール拾いはおろか、ゴールポスト、タッチライン、コーナーポールに設置されたカメラの映像をリアルタイム(と言っても1secほどは経路上のデータ遅延の足並みを揃えるために遅れるが)に継ぎ合わせて、選手の人型モデルや顔写真のマッピングによる補正処理を加えたとは言え、ほぼ三次元空間の再現に成功している。
観客は数百台のカメラが生み出す、事実上無限の視点の上を移動しながら「コート内」でゲームを観賞できる。
実際には3000チャンネルほど使ってこうしたカメラや補正映像が試合時間中放映されているわけで、ユーザは手元の受像機を使って自分のための映像を作り出す。

最初は皆喜んで付いて走ったりしていたが、そのうち注意散漫に見たいという視聴者のために、誰かの視点を「分けて貰う」ようになった。当然カリスマ視点が登場するわけで、今では腕の良い奴は安定して稼げるようになってしまい、カメラサーファーと言う職業ができた。
実際幾つかの代表的な視点に視聴者のほとんどが吸い込まれるのはトラフィックの点で助かることが多い。ほんの僅かに異なる視聴者のために別のチャネルを用意するのはサービス付加価値としてはいいが効率が悪いし、視聴者が払う価格も上がる。需給両方の面でカリスマ視点は重要だ。

そのうち美容院にもカメラが100台ほど付けられ、カリスマ美容師の視点を広告がわりに提供するようになるだろう。カツオの一本釣り漁船に乗り合わせることだってできるのだろう。

因みに最近では補正技術をうまく使って、ボールにカメラを入れること無くボールの視点を味わうことが出来る。このためボールに入れるカメラを開発していたベンチャー企業は破産寸前だ。人体にカメラを付けるかわりに、コートに20cm間隔でカメラを埋設して、踏まれそうになったら芝の中に隠れる仕掛けを付ける、というアイディアも試されたが、今のところ微妙な地面の踏み心地の違いが怪我を誘発すると選手に嫌われている。
その点で有望なのは芝の葉に似せたファイバーカメラを1cm間隔ほどに植えていく方法だが、これはまだカメラ単体の解像度が低く、画像合成の処理量が爆発してしまうため、サービスインのメドが立たない。むしろ生物計算機の最初の有望な応用用途とみなされている。昆虫の眼の映像処理に近いため、ハエの脳を使うと言うが、さてうまくいくだろうか。



Yutaka Yasuda

2001.02.22