品質はどこまで下がるか?

CD,MD,MP3と、音楽の品質は新しいほど下がる傾向にある。DVDもまたしかり。

NTT DoCoMo の音楽配信端末機第一号、Picwalk が届いた。モニタ募集に応募して使ってみたかったのだ。実際、一曲 350 円支払って楽曲を買うということが現実的なのか?その実感を得たかったというのが大きい。(『所有する音楽』も参照)

Picwalkとは関係ないのかもしれないが、MP3が妙に流行っている。これがいきおい音楽配信などを現実のものにした。まあ、いずれ帯域が広がるとともに現実になる筈だったこの話を、急速に手元に引き寄せた、という表現が妥当だろう。それ自体画期的なことではない。
気になるのはそこではなく品質についてだ。みんな MP3 の品質でいいのか?

近い将来帯域が広がれば品質が上がることに疑いはないし、MP3が一過性の技術となることにも疑問はないが、気になるのは、今その品質で多くの人に受け入れられてしまうという点だ。技術に詳しければMP3が現在の技術バランスの上でだけ成立する妥当な現実解であることを理解した上で、それを受け入れるだろうが、一般の利用者はそんな判断をしていないだろう。

CDだってそれほど品質が良いとは言えない。サンプリングレートなどの値は当時の技術の限界から来ているはずだ。CDからもう20年ほど経つ。それよりかなり落ちる MP3 でいいのだろうか?

最初、ホームビデオはベータマックスが出て、その後、より品質の低い VHS が登場し、また三倍録画などという冗談のようなものまで出て、どんどん低品質の映像が提供された。なんだ、それでいいんだというわけなのか、DVDは当初から VHS 程度(画素数は倍程度だが圧縮による表現力の低下で相殺されるような気が)の画像品質を目標に作られている。どういうことだろう。どうして新しい技術、新しい製品ほど品質が落ちていくのだろう。(今でも家庭用テレビで表示できる動画の最高品質はLaserDiskのそれなのだろうか?)
昔、オープンリールのテープを使っていたはずなのに、皆コンパクトカセットに流れた。Lカセットはそれほど流行らなかった。CDからMDへ、MDLPやMP3へと、品質低下はとどまるところを知らない。

デジタルとは模倣表現にほかならない。生まれた時から偽物なのだ。僕らは品質の低下を受け入れることで、どんどんとオリジナルから遠ざかり、偽物に埋もれた生活をすることになる。偽物があふれ、本物から遠ざかり、何が本物で、何が偽物なのか分からなくなっていく。

映画のデジタルプロジェクションは、やはりニセモノなのだろうか。それとも高品質な新しいものなのだろうか。Pickwalkの音はそれほど悪くないと言うが、さて、どうだろうか。



Yutaka Yasuda

2001.02.21