Easy to guess な URL を求めてドメイン名を奪いあうのは、まるで Easy to remember な IP address を求めて SRI-NIC にクレームを出すようなものだ。DNS がそのような行動を無意味にした事を何故皆忘れてしまったのか?
Keywords: [ RealName, DNS ]
comドメインが溢れていて、もはや短めで自分の希望するドメイン名は取れないような状況だ、そういう話を聞いてからもう二年ほど経ったような気がする。次は net ドメインが狙い所だそうだが、じき org ドメインもそうなるだろう。
ある会社が取っていた com ドメインに対して、その名前は自分達のものだと別の同名の会社が訴訟を起こす、ということが始まっている。ナンセンスだ。実にナンセンスだ。
どうして僅か数文字しかとれない名前空間を皆で奪い合わなければならないのだろう。更に「便利な」名前空間を増設するために .web などの意味ありげな gTLD が新設されようともしている。gTLDをやめてすべて Country Domain に納めれば済むというわけでもない。なぜドメイン名を争わなければならないのだろう。
ドメイン名はネットワーク上のリソースを識別するための識別子である。その識別子が連想しやすいものであるかどうかがそれほど重要だろうか?社名などの商標は確かにそのような要素を持つだろう。しかしコンピュータシステムの識別子を、利用者が直接記憶ないしは連想しなければならない理由はないはずだ。何故ならそこにはインテリジェンスを埋め込める可能性があるからだ。
適切な検索システムがありさえすれば、ユーザはドメイン名がわからなくても知っている社名なり地名なり業種なりの、連想に用いることが出来る情報をシステムに与えることによって、容易に適切なリソースにたどり着くことが出来るはずだ。架空の例としてあげるが、www.matsuzakaya.com を www.matuzakaya.com と、たった一文字覚え違えたら(またはタイプミスしたら)、全然違うサイトにつながってしまうシステムとどちらが良いだろう。
ドメイン名をひたすら人間の暗記能力と結び付けようとする、その考えかたには致命的な欠陥がある。コンピュータシステムのインテリジェンスを全く活かしていないのである。
過去において、僕の周囲の幾らかのサイトでは覚えやすいIP アドレスを欲した時代があった。サーバのアドレスは後ろ 2 オクテットが 100.100 というような具合だ。しかしそれはエスカレートすることなく消えてしまった。理由は DNS の登場である。
ドメイン名を覚えやすいものにしたいと願う今の状況は、僕にはこのDNS 登場以前の状況とだぶって見えて少し滑稽ですらある。(『DNS以前、以後』を参照)
まずドメイン名はネット上の資源への不変のポインタであるべきだ。そう望まれ、そう作られた。それを(それほどとは思えないが)直観的に社名や商標を指すように見えるから、と商業上あるいはそれ以外の利益のために変更するべきではない。これはドメイン名システムを流用したことによる副作用的な悪影響であって、是非を論ずるような問題ではない。つまり好都合と悪影響の間で押し問答するしかないのである。そして現実にそうなっているところがまた情けない。それ以外に、それより良い解決方法を考え付かなかったのだろうか?
押し問答より、それを飛び越える解決策を捜そう。技術でそれを解決しよう。ネットの中では、いつだってそうしてやってきたんじゃないのか?
社名、商標というあるアドレスから、ネットワーク名前空間のアドレスへのマッピングという作業は、すなわちアドレス解決(Address Resolv)そのものである。ドメイン名から IP アドレスを割り出す DNS、IP アドレスからMAC アドレスを割り出す ARP、これらと同様の Resolving の機構がそこに必要なのだ。つまりWIPO などによって国際的に管理された商標などから、ネットワーク上の資源の位置を示す名前、ドメイン名へのリゾルブができる仕掛けが求められているのだ。
これを例えば Web にうまく組み込むことが出来れば、URL を勘で打ち込んで JPNIC がjpnic.ad.jp だったか jpnic.co.jp だったのか悩むこともなく、松坂屋をタイプミスして別のサイトにつながる心配もないものが出来る。何よりそこにはインテリジェンスのアシストが期待できる。
これは検索エンジンに似ているが、今の検索エンジンにインテリジェンスを期待できないのは明らかだから、当然もっと管理された情報が、ここには必要だ。「花王石鹸、ホワイト」で、間違いなく目的の製品だけをヒットできるようなものが。Realname社(http://www.realnames.com/)がこれと似たようなことをやってくれそうなのだが、今のところどうやら運用ポリシーは僕が欲しいものとは違うようだ。
ドメイン名を争うという問題が、早いもの勝ちで後から訴訟というルールをやめて、事前に商標登録したものだけドメイン登録という形にすれば解決できるような種類のものではないことが分かってもらえるだろうか。何が足りなくて、どこに無理があって、何を作ればいいのかが分かってもらえるだろうか。
ネット世界以外の人は、現実の延長上の未来を前提として、現実の不都合を調整しようとする時がある。今までそれでうまくいっていたからだろう。そういう人たちの暗い努力を吹き飛ばすような新しいものを、僕らは作らなくてはいけない。それが停滞せず前に進むための力になるのだ。
(『不変の識別子を持つ』も参照)
1998.06.06