DNS 以前、以後

現在ドメイン名は一つの危機に直面している。それは技術的な問題ではない。
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DNS 以前

インターネットにおけるもっとも低レベルに存在する識別子は IP アドレスである。 全てのネット上のホストコンピュータにユニークな IP アドレスを割り当て、論理的には全てのホストがフラットに並んでいるように見せる、という TCP/IP ネットワークにおける基本的な構造をインターネットはそのまま採用している。 そしてこれ以上複雑な構造を持つことをインターネットは嫌っている。 つまり全てのネットワーク資源への到達性はこの IP アドレスを指定することだけで可能にする、というのがインターネットの一つのポリシーである。

しかし利用者にとって IP アドレスをいちいち記憶し、指定するのは面倒である。 また、IP アドレスはホストコンピュータの接続されているネットワークの変更などによって変化してしまう。それを逐一知り、対応するのも面倒である。そこで TCP/IP には基本的に IP アドレスに一対一に対応するニックネームを割り当てる機能が提供されている。 これは他のプロトコル、例えば BITNET, DECNET でも一般に良く行なわれている方法である。

しかし拡大していくインターネットの中で、ニックネームの命名に何らかの管理が必要だということになった。 そこでインターネットではこの名前を階層的に命名することにした。これがドメイン名である。

DNS

従来的にはニックネームと IP アドレスの対応は簡単な対応表を作って回覧することで解決してきたが、大きくなり過ぎたインターネットではそれは通用しない。 (BITNET では少なくとも 1994年頃もずっとこの回覧方式で管理していた。今はどうか知らない。)また、一箇所で全てのホスト名を重複しないように管理すること自体にも無理がある。 その結果、階層的に管理されたドメイン名から、適切な IP アドレスを導き出すデータベースシステムが作られた。これが DNS, Domain Name Service である。 DNS は当初から分散管理、分散更新のデータベースとして設計され、そのまま今に至っている。 現時点で稼働している、世界でもっとも広域で大規模な分散データベースであると言っていいだろう。

DNS以後

ドメイン名は多くの場合資源へのポインタとして使われ、最終的には IP アドレスに置き換えられて目的のコンピュータに到達する。

IP アドレスはホストコンピュータの状況の変化によってたびたび変化する。 それをフォローし、変化を吸収してくれるドメイン名はネット利用者にとって不変のポインタとして利用されてきた。 正しく機能していたと言っていい。
インターネット全域で機能している、世界最大規模の分散データベースシステムが、現在の DNS の姿である。

しかし現在ドメイン名は一つの危機に直面している。それは技術的な問題ではない。 利用者にとっての直接のポインタの一部となるドメイン名について、商標権との一致などを求める傾向が強まっているのだ。僕の結論は「DNSに頼らず、DNS以後にふさわしい新たな名前解決法(リゾルバ)を確立すべし」である。これについては『何故ドメイン名を争うのか』で書く。



Yutaka Yasuda

1998.06.06