NeXTがんばれ

1990年、NeXTコンピュータが離陸してから、1997年の今に至るまで、結局だれも新しいチャレンジをしていない。
Keywords: [ NeXT, NeXTSTEP ]

NeXT Computerはその最初の発表のとき、「NeXTは次の’90年代の10年に通用するコンピュータだ」と言った。これが創設者であるスティーブ・ジョブスの基本理念だった。

NeXTはさまざまな新しいものを含んでいた。完全な OOPS 環境、Objective C、ディスプレイ表示とプリントアウトを WYSIWYG 的に高い精度で一致させる為の Display Postscript、そして DSP (Digital Signal Processor)や高スループットを約束するための I/O 制御用のチップセット等だ。これらのものを高い完成度でまとめ上げたのは賞賛に値する。
ただ、これらのハードウェアと NeXTSTEPを 完全なマルチタスク OS の上に構成するためにと選んだ mach カーネルと UNIX が 4.2BSD互換だったせいで、多機能で GUI の付いた UNIX ワークステーションと思われたり、非常に良く出来た OOPS の一つの例、Interface Builderが、Motifなどのユーザインタフェイス構築ツールの親戚だと思われたり、結果的に周囲が NeXT の良いところを理解しなかったことは非常に残念だ。

私が当時在職していた大学のU先生が、次期教育マシンの選定の際に「我々はUNIXの波に乗り遅れた。今からそのようなものに乗るのではなく、今ここで Object の波に乗ろう」と言って NeXT を推薦されていたのが心に残る。そのような評価を NeXT ユーザ以外から受けられなかったように見える。商業的には、ほんの一握りの市場での成功と、遂に成立しなかった教育市場との関係が殆ど全てだったと思う。

今、GUI が普通になった時点で、 Macintosh に優れたものはもう何も無いと考えたり、GUI を付けた PC/AT をMacnitosh と良く似たものだと考えたりする人はまだ居るのだろうか。それは Macintosh から何も学んでいないという点で実に残念な理解だ。
同様に、NeXTは良く出来た GUI のついた UNIX マシンではない。オブジェクトというアイディアの使い方を実体化したものなのだ。

実を言うと僕は NeXT を殆ど使ったことがない。少し使い、多く身近に眺めていた。
以前、当時学生だったH君に、パスワード変更プログラムにフックを入れて、後処理を加えてもらったことがあった。後日、今度は別のH君に、マシン起動時のメッセージを表示するプログラムを作ってもらったこともあった。その時の彼らの説明、操作、アプリケーションの作り方を見ていると、この NeXT というシステムの環境、その問題へのアプローチが、どれほどうまくオブジェクト指向的にうまく出来ているかがよくわかった。
差分プログラミング、部品再利用、と言うことが現実のものになっている。この点では今の Windows や UNIX 等も全く到達できていない地点まで、NeXTはその誕生の時に既に達していたことになる。
もう一度言う。NeXTはオブジェクト指向の塊(かたまり)なのだ。これこそが NeXT のアプローチであり、目標なのだ。

こうした NeXT の努力も空しく、彼らはそれほど認められていないし、成功もしていない。結果的には Apple 社に吸収合併されてしまった。
しかし彼ら以降、誰も新しいコンピュータシステム、その新しいアプローチにチャレンジしないのは何故だろう。全く驚くべきことに、’90年代の 10 年間は、全く新しさのない成長、即ちただの伸長しかないと言うことになりそうだ。(もちろん plan9, spring も含めて実験的なものはあるが、それでは世界は変わらない。)
「なるほどだから NeXTが受け入れられなかったのか!」 とは余り言いたくない。しかしジョブスが心から願った新しさに価値の無かった 10 年間。これは一体どういう事なのだろうか。

NeXTは結局それほど成功しなかったし、オブジェクト指向というアプローチも普及しなかった。経営的な点等も含めて、間違っていると思える点も多い。将来も期待薄だ。
しかし僕は新しいアプローチを待ち望んでいる。だから NeXT も応援する。NeXT頑張れ。



Yutaka Yasuda

1997.12.07