Cinema Review

ベンジャミン・バトン

監督:デビッド・フィンチャー
出演:ブラッド・ピットケイト・ブランシェットティルダ・スウィントンエル・ファニング

極端に老化が進んだ姿で生まれ、成長するに連れて若返っていく、人とは逆の時間を過ごす男の一生を描く。

フィンチャーにしては実に真っ当なドラマである。すべてのものがストレートに描かれる。もちろん物語そのものに強烈なねじれがあるため、それ以外の要素をまっすぐ描くことが良いアプローチには思える。それにしても僕のフィンチャーの印象はそれとは違うものが強かったので、これは意外だった。ティム・バートンが『ビック・フィッシュ』で見せたひねくれてない物語に新鮮さを覚えたが、それに近い。

いやもちろんクローネンバーグの『デッド・ゾーン』だって、クローネンバーグファンから見たら実に彼らしい作品で何の違和感もないのに、多くの(ファンでない)層からはその真っ当な描き方が意外、あるいは新鮮と受け取られたのだから、今回の僕のフィンチャーに対する新鮮な印象もフィンチャーファンにとっては実に普通の事と見えているかも知れない。

ものすごい合成(何年後かのために書いておくと、本作はブラッド・ピットの顔をまったく異なる別人の体にすげかえて作られており、そしてそれが現時点ではとても新しく普通でないことなのだ!)とか、いろいろ思う事はあるのだけれど、一点だけ。

この「少しずつ若返り、最期には赤ん坊になって命が尽きる」というテーマ、僕にとっては江口寿志の短編『岡本綾』だ。これもまたネタ元があり、山田太一の『飛ぶ夢をしばらく見ない』だ(と、『青少年のための江口寿志入門』のあとがきにあった)。本作もまた原作がある(F・スコット・フィッツジェラルドのやはり短編らしい)。
短編にふさわしいテーマであろうと思うし、そのぶんわずかなページとコマ数で切ってみせた江口漫画の印象が僕には強いが、この映画も良い感じだ。

Report: Yutaka Yasuda (2009.12.27)


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