Cinema Review

ブラック・スネーク・モーン

Also Known as:Black Snake Moan

監督:クレイグ・ブリュワー
出演:サミュエル・L・ジャクソンクリスティーナ・リッチ

セックス依存症の女を鎖でつなぎ止める初老の男。彼らの心の闘いを描く。

冒頭、なぜかブルースについて語るモノクローム映像が出てくる。ひょっとしたら伝説的な人の有名な語りなのかも知れないが、僕はそれについて何も知らない。何故この作品にブルースが出てくるのかも知らない。僕はいつものように予告を見てひっかかっただけだ。劇場で掛かったのかどうかも知らない。たまたまビデオ屋にあったのだ。

その予告で僕が引っかかったのは半裸で鎖を掛けられた女が老人に引き倒されるシーンだ。奇妙な取り合わせだった。この奇妙さと、クリスティーナ・リッチがちょっと格好良かったので見る気になった。

実際、彼女はとても格好良かった。彼女は『バッファロー66』ではひどく太っていて、『スリーピー・ホロウ』ではお姫様のようで、『モンスター』ではまるで少年のようだった。ロバート・デニーロをカメレオンと呼ぶのなら彼女は何と呼ぶべきか。比較的ぽっちゃり系というか、放っておくと太るが、痩せてもなんとなく柔らかい感じがするタイプと思うのだが、本作での彼女はとてもきれいに痩せててよろしい。筋肉質とまではいかないが、きれいな体の線だと思う。クリスティーナ・リッチ鑑賞作品と思っても良いか。

しかし演じるのはセックス依存症の女だ。このキャスティングの条件は魅力的であることと、イノセントであること、ではないか。そしてその二点は彼女が選ばれた理由として納得できる。この作品での彼女の役は下手をするとただの変態色情魔なのだが、裏側に虐待され、拒絶された心がある。『17歳のカルテ』でのアンジェリーナ・ジョリーが演じた複雑な少女にも通じるが、アンジェリーナ・ジョリーのそれがどこまでも堕ちていきそうな激しさが表に出てしまうのに対して、クリスティーナ・リッチはどんなに自暴自棄になっていても、その姿に助けを求める悲鳴が透けて見える。彼女は底の方でイノセントなのだ。

名優サミュエル・エル・ジャクソン演じる老境の男もまた複雑な精神を内にもっている。激しく、粗野で、善良で、優しく、身勝手で、暴力的だ。そしてその信仰は厚い。僕はこういう複雑さがとても苦手なのだが、おおよそ人間というのはこういうものかもしれない(と思わせる)。

物語の後半まで、ある種死んだような、非人間的な二人の絵づらの中に音楽が入ってくる。男はブルースを歌うのだ。ぎょよーんとギターを鳴らして、歌う。歌が画面に入り込んでくることで、二人の体温が急に感じられるようになる。彼らは歌によって洗われていくのだ。タイトルは「黒いヘビのうめき」だが、男はそれも歌う。こういうオッサンも、ちょっと、良い。

Report: Yutaka Yasuda (2008.09.14)


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