Cinema Review

アップルシード

Also Known as:APPLE SEED

監督:荒牧 伸司
作者:士郎 正宗
出演:三輪 明日美、秋本 つばさ
声:小林 愛、小杉 十郎太、松岡 由貴、小山 茉美


内容は、、、僕は士郎さんの作品を読み過ぎているからだろう、ちょっとひっかからなかった。結果的に僕はこの作品をアニメーションと CG の接点を探すために見たことになった。面白い結果だったと思う。『イノセンス』で押井さんが試みた方法は僕にとっては(普段からアニメーションを見ない人種にとっては)決して良い結果にならなかった。『ファイナル・ファンタジー』ではかなりまともな品質のモーションキャプチャーとグラフィックスの組み合わせだったが、感情移入をするとっかかりが見いだせなかった。きっとそれは筋書きのあまりの単純さのせいばかりじゃないと思う。

僕を含めたこのあたりの世代は多くの人がアニメーションを子供の頃から見ており、そこに自己投影するなり感情移入するなりしてきたと思うし、またそれができていた。『ガッチャマン』や『エイトマン』などのある意味いいかんげんなキャラクターであっても普通に感情移入できていたことから、キャラクターの表現よりストーリーが観客の感情移入の対象だと思われがちかと想像する。もちろん生身の役者がやっていたって集中力を維持できない場合があるわけだが、逆にその意味も込めて僕はキャラクターの描画とコントロールの技術はもっと上がらないと駄目だと思っている。技術で上げられるところはできるだけ上げるのが真っ当だ。その後いわゆる演技の部分で作品の良し悪しが決まるようでないといけない。僕は日本のアニメーションはもうその形式でなければ表現できない領域まで扱えるようになったと思っている。現在の映画の多くが映像技術の面でアニメーションにどんどん接近している。『MATRIX』『ロードオブザリング』etc. etc.

今後、今まで映画が扱えなかった映像領域と表現形式に、さまざまな角度からさまざまな斬り込みが行われていくだろう。日本のアニメーション作家の幾らかは、CG との融合によってアニメーション世界と外の世界を結びつけようとしている。その方法は映画が扱う映像領域を広げる試みのなかでも有力なナイフの一つとなるだろう。アニメーション、実写、CG の対等な融合は多くの映像作家が試みながらなかなか果たせなかった事の一つと僕には見えているが、この作品は一つの突破口を見つけたかもしれない、という印象をもった。

本作ではモーションキャプチャーでキャラクターにアクションを付けているが、これがかなりうまくできていた。オープニングの数分間の格闘シーンはマンガを超えている部分もある。よく映像になったな、とも思う。実写でやるとむしろより非現実的に映る領域だからだ。『キャシャーン』の格闘シーンもかなり素晴らしいものだったが、紀里谷監督はアニメーションの『キャシャーン』のシーンを強く意識しているようだった。あのジェット銃での跳躍や着地、超高速でのダッシュやターンのシーンを思い出した人は多かろう。これも『キャシャーン』がアニメーション的な背景映像のなかで描かれたために違和感をもたずに受け入れられたものだと思う。ときどきアメリカのコミックス(スパイダーマンなど)を見るが、このスピード感、カット割りはやはり日本のそれのほうが一段先んじているように思う。『BLADE』はハリウッドとしては頑張った方だと思うがそれにしてもこのくらいだ。完全実写でこのあたりをやることにある程度でも成功しているのはせいぜい香港アクションくらいか。『グリーン・デスティニー』『楽園の瑕』に、しかし違和感を感じる人は少なくないと思う。慣れの問題かも知れないし、それは日本的アニメーションと同じ条件かも知れないが、どちらが「いま」良いか、よりむしろどちらに将来が、と考えると僕としてはアニメーションに一票だ。香港アクションであれ以上どこに進めるかということについて考えたとき、僕はあまり楽観的になれない。 

顔筋追跡で演技の反映をさせる、ということについてはまだまだのようだが、これも効果が出ていることは間違いない。『ファイナル・ファンタジー』のようなフルシェーディングではなく、従来のセル画でやっていた影の付け方(顔を三段階くらいに影付けして色トレスして塗り分けるような方法)と合わせた点も効いているだろうが、とにかく CG で合成された人間の顔が、上映開始後ある程度で従来的アニメーションの絵に慣れた僕に違和感なく受け入れられる「記号」になったことは書いておきたい。『イノセンス』で僕がどうしても消せなかった違和感の問題をこの作品の手法は克服(回避?)したと思う。最初にその部分がほとんど関係ないアクションシーンが設定されていたのもうまい方向に効いていたかもしれない。

以上、余り伝わりにくいかもしれないが、見終わった直後の僕の印象として書き残しておこうと思う。

最後に、ソフトウェアが Illustrator や Shade など、いわゆる PC ソフトで処理されていたようで、そのあたりは面白かった。開発環境にお金が掛からないのは良いことだ。

Report: Yutaka Yasuda (2004.05.04)


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