Cinema Review

パダヤッパ

Also Known as:Padayapa

監督:K.S.ラヴィクマール
出演:ラジニカーントサウンダリヤーランバー

長らく待った新作、マサラムービーの本領発揮。相変わらず劇場でアッハッハと笑える。こういう映画はいい。

本作は『ムトゥ・踊るマハラジャ』で多くの日本人の心をワシ掴みにしたに違いないラジニカーント主演、前作『アルナーチャラム・踊るスーパースター』以来 2 年ぶりに劇場公開された快作マサラムービーである。最初の公開予告からも 2 年経ったか、実に長かった。

「SUPER STAR」と入る毎度のオープニングは今回も健在。上映初日の第一回めに見たのだが、待ちに待っていたらしいファンが(恐らく早くから並んだのだろう)最前列を占拠して座り、この「SUPER STAR」のショボいアニメーションで入る「ヘイ!ヘイ!」という掛け声に合わせて手を叩いていた。その意気や良し!気に入りました。思わず「ををををー」と声をあげて応援します。がんばれー。

その拍手は「SUPER STAR」に「RAJINI」の文字がかぶった後、音楽に合わせてピタっと止まります。ここでまた「ををー」。
きっとこの日のために修練を積んだのだろう。先に公開された東京の上映も見たに違いない。いやひょっとしたら東京から大阪の観客を洗脳するために遠征に来たのかも知れない。「キミも僕たちについてこないか!?」と。
(冷静に考えると逆の可能性の方が高いか?つまり関西人が東京の客を洗脳するために遠征を繰り返し、今日凱旋した、という可能性の方が。「お前もワシらについてこんかい!」)

馬鹿話が過ぎた。本題。

本作は私が見たインド映画では初めて?の Unhappy ending な悲劇ベースのおはなしだ。インド映画は辻で幕を張ってやってた芝居をそのままスクリーンに再現しているような構成になっている。4000年前の今日も、インドでは同じような芝居が掛かっていたんじゃないかと思わずにいられない。
古き世では、芝居は悲劇と喜劇に大別されていたように思うが、つまりインド映画でも喜劇と悲劇との両方があるということなのかもしれない。

ただ物語は悲劇だとしても、随所に散りばめられたギャグのセンスはやはり冴えている。ラジニカーントという突出したキャラクターをうまく使って、すばらしいギャグを連発してくれる。『ムトゥ』では御者(ぎょしゃ)であるラジニが手の合図(彼が動かすとヒュンヒュンと「無意味に」鳴る!)だけで馬車を進めたり停めたりしたが、今回はジープのドアを手まねきで開け、閉じ、去っていく。なんなんだいったいそりゃ!

他にもただ笑いのためだけに挿入されたギャグシーンがいくつもある。いずれもかなり高度に様式化されたギャグだ。ここは吉本のギャグが高度に様式美を追求しているのと全く同じで、しかも吉本的タイミングでばっちりはまる。本気で笑える。
これ、果たしてインドの人達と関西の人達の笑いのセンス(と様式)が実は同一だと言うことを示している?僕は西洋製映画のギャグが全然笑えない。ということは西洋人がこれを見たら全然笑えないのか?考えると面白い。
(因みに関東の人ともギャグの間は微妙にずれる。)

インドの踊り(本作劇中でも多くでてくる、民族衣装をまとって首を前後左右に振ったりするアレ)には、手の振り、足の踏み方一つにそれぞれ意味があるらしい。物語を語るように舞うその姿には、つまり高度に様式を追求した美しさがあるわけだ。
僕には可能な限りの「見せる」表現をそぎ落したように映る能にも、当時のテクニックと装飾技術の全てを注ぎ込んだような歌舞伎にも、それぞれの様式美がある。狂言の大泣き、大笑いも様式美のひとつなのか?僕は知らないがバレエにも意味のある動きがあるらしい。ああこれらを理解する教養が足りない!

(歌舞伎の見栄を切り、タン・タン・タンと踏み鳴らしながら顔をすこしずつズラすあたりに、僕は『サイコ』のような映画的表現効果を感じる。たとえそれが見せ場の顔を、より多くの観客によく(長く)見て貰う意図から生まれた技法だとしても、結果として観客の注意を集中させるための工夫として同じ点に着地したのだと思える。)

ともあれ、ギャグセンスが共通なのだとしたら、ここはひとつ『吉本新喜劇』をインドに輸出してみてはどうか。「おもしろうて、やがてかなしき」ストーリー展開もインド映画とまったく共通だしね。勧善懲悪的なところでいくと『水戸黄門』か。まあいずれにしてもこのあたりの交流は楽しそうだ。
(今僕は真理アンヌなどのインド系美人にはまりかけていて、ちょっとインドびいき状態なのだ。今度『殺しの烙印』を見に行こうと思っている。)

ところでカメラワークが相変わらずおかしくて、僕はそれだけでも笑ってしまった。『ムトゥ』では股をくぐるハンディ(?)の動きに爆笑したが、今回はどうやらクレーンがお気に入りのようだ。もうカメラをぐいんぐいんと振り回してくれる。最近クレーンを手に入れた撮影監督が使いたくってしようがないという感じで、パッと引いた構図でカットが始まった途端に、「来るぞ来るぞ」と身構えるほどだ。
そしてただ一本、特定の広角レンズで撮ったと思われるカットだけ異常に発色が良い、という現象もやはり『ムトゥ』の時と同じだ。同じチームが再結集したというのはどうやら本当らしい。
ラジニカーントはもう引退したいかもしれないが、このチームをこれで終わらせてしまうのは惜しい。「俺は待ってるぜ!」という気分だ。

Report: Yutaka Yasuda (2001.05.26)


[ Search ]