Comic Review

魔少年ビーティー

作者:荒木 飛呂彦

その転校生は僕の友達だけれど、実は恐るべき悪知恵にたけた魔少年だった。

僕は少年ジャンプを余り読まない子供だった。まあジャンプが少年漫画誌でダントツの人気を誇るようになるのは僕がよく漫画週刊誌を読んでいた頃より少し後だから、と言うのもあるだろうが、しかし余り好きじゃなかった。子供が少年誌を評して言うのも変な話だが、単純に子供っぽ過ぎたからだ。僕がもっぱら愛読していたのは少年サンデーだった、と、言えばしかしこれはただの軟弱少年そのものだということがばれてしまうな。

当時の少年漫画誌には上記のような何となく判るたぐいのカラーがあった。ジャンプと言うとバカっぽいまでに明るい、という傾向がなんとなくあったと思う。その中でこの『魔少年ビーティー』が掲載されたのは相当に特別なことだったと思う。その内容は当時の言葉でいうネクラっぽく、子供なのに相手を裏切ったり憎んだりと、非常にドロドロした心情を中心に筋書きが回っていた。後半少しましになったがが、それにしても、だ。
その違和感についてはどう説明したらいいだろう。ジャンプに諸星大二郎を連れてきたら、というのにある意味似ている。異質な世界観を持ち込んだ、という点と、それが子供達に易々と受け入れられそうにない、という点で。

当時全くの新人だった作者が、まあよくジャンプに連載で取り上げられたものだと思うが、やはり彼の才能を見抜いた人がいたということだろう。その後彼は『バオー来訪者』に続き、『ジョジョの奇妙な冒険』を非常なロングシリーズとしてヒットさせ、彼の才能を証明した。

僕はこの独特の世界観をもつ彼の作品が(『ジョジョ』になってすぐついていけなくなったくせに)何故か結構好きだ。『死刑執行中、脱獄実行中』は僕の最も好む彼のセンスが満ちた名作だと思う。絵柄やカット割りも気に入っている。
今回偶然に文庫サイズになって再販された本作と『バオー』を発見し、驚いて買ってしまった。そしてかすかな記憶となっていたビーティーと再会を果たし、初見当時の不思議な印象を思い出すことができた。

はっきり言って本作はあまり優れた作品ではないと思う。工夫してはいるが新人らしく絵柄もいまひとつで、内容も青臭い。当時子供だった僕の目から見てもそれは同じで、その頃僕が良く読んだあだち充の作品などと比べて、魅力は余りなかったと思う。ただ、その大胆な線や構図には魅かれた。同時に荒削りな彼の作品世界そのものに奇妙な引力を感じた。これこそ彼に注目する事になった最大の理由だ。奇妙な引力。
その引力は今も衰えていない。洗練されるとともに鮮烈さを失うのが、作家の表現の常と言っても良い一般的な傾向だと僕には思えるが、彼は珍しく例外に属する。今なお彼のイメージはキラキラと輝いている。

なお、本書の次の作品となった『バオー来訪者』もなかなかに面白い。相変わらず稚拙な印象をまぬがれない絵柄や筋書きではあるが、彼のイキイキとした筆致が全編に溢れている。推薦する。

Report: Yutaka Yasuda (2000.07.28)


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