Cinema Review

死の王

監督:ユルグ・ブットゲライト
出演:ヘルマン・コブ、ニコラス・ベッチェ、アンゲリカ・ホッホ

月曜日、一人の男が睡眠薬を飲んで自殺する。彼は自殺を遂げる直前に友人たちに遺書を出していた。そして、遺書を受け取った人々が次々と死へ突き落とされていく様を、一週間のそれぞれの日に割り当てて描く。

不愉快ではない。私には、視点の乾き具合と、映像・音楽によって醸し出される寂しい美しさのバランスが非常に気持ち良いのだ。『ネクロマンティック』の監督作品だからと敬遠していたのは勿体無かった。ただのゲテモノ映画としての扱いを受けている事が多く見受けられるが、そういう映画ではないと思う。なぜ発禁処分をドイツで受けたのか分らない。『ネクロマンティック』シリーズの巻き添えで処分されたという事か。

死体が腐り、ウジがわき、骨へと化していく様を撮り続けたりするが、直接的な死体の表現は思うほど過激ではない。死体の腐っていく映像にしても、モノクロ映像で撮られ、美しく耳に残る音楽をかぶせてある。『ネクロマンティック』の様なグチョグチョの死体描写はない。おそらく意図的に避けたのだと思う。
殺人風景に関しても、実験映像の様な雰囲気で死を表現してエグい表現を避けている。そして、その表現一つ一つが、実は結構面白い。最初に睡眠薬自殺する男の描写からそれは見てとれる。部屋の中でカメラを回転させ続け、それを長回しの様にカットを割らずに(おそらく見せ掛けて)撮影することで時間の経過を表現する。その映像の中で、死ぬ前の様々な身支度をしている男を短時間で興味深く表現していた。
妻を殺してしまった男が公園で殺人を告白するシーンも良かった。告白し始めた途端に、画像・音声が乱れ、画面がブレるのだが、このタイミングが唐突かつ絶妙で、恐怖や狂気を上手く表現して気持ち良い。
所で、火曜日に出て来るレンタルビデオ屋の名前が「ビデオドローム」で有る事も見逃してはいけない。スナッフ(実際に殺人が行われる現場を記録した映像)的な覗き見の快感と「死」そのものの描写を、映像表現をメインにまとめ上げていこうとする意図の表れなのか。スナッフ的と言えば、一人の女性映像作家がライブ会場で無差別殺人をする曜日が有るが、これも凝っていてなかなか面白かった。

以上の様に映画の構成が7分割になっていて、なおかつそれぞれの曜日で表現方法が変えて有るため、10分前後の短編映画を並べて観ている感覚になり、静かな映画だが飽きないで最後まで見る事ができる。この構成はなかなか効果的だったと思う。

ただし、気になる点も有る。一応、最初の自殺者から呪われた「死の王」の手紙がばらまかれて、それに操られる様に狂気に陥るというストーリーが有るのだが、これのせいで何だか安っぽく、中途半端なホラーの様に感じてしまったのは私だけだろうか。こんな所だけを分かりやすく作る事に意味を感じないのだけど…。ただの「死」の羅列の方が、無情感を増したのではないか。「死の王」という象徴は別の形、例えば腐乱死体の描写に重ねる事ででも十分表現できたと思うのだが。全体からこの部分が浮いている感じがした。

死体そのものに抵抗の有る人もいるだろうから、まぁそういう人は見ないほうが良いだろう。かと言って、スプラッター好きが観ても、退屈な映画としか思えないのではないだろうか。映像表現に多少興味が有って、静かな映画が好きで、なおかつ「死」に興味が有る人なら、この映画にのめり込めるかもしれないが、自信は無い。見る人を極端に選ぶ映画だと思う。そのせつなく、ちょっと偽善的な甘さも含めて、私は結構好きなのだが。

Report: Jun Mita (1999.07.23)


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