Cinema Review

恋におちたシェイクスピア

監督:ジョン・マッデン
出演:グウィネス・パルトロウ、ジョセフ・ファインズコリン・ファース、ジュディ・デンチ

シェイクスピアは、コメディの執筆を経営不振のローズ座の経営者ヘンズローに頼まれていた。だが、スランプに陥り筆が全く進まない上、色恋沙汰もさっぱりだった。そんな折、コメディのオーディション会場に一人の青年、トマス・ケントがやって来た。彼の演技力に目をつけたシェイクスピアは彼を追って豪華な邸宅に入り込み、その日の夜会で、美しい令嬢ヴァイオラと出会う。やがて二人は互いを意識し愛し合う様になるが、ヴァイオラには両親に決められた婚約者がいた。

私はほとんど恋愛映画もシャークスピア劇・映画も見ない方なのだが、これは本当に面白かった。
ストーリーは、劇中劇の「ロミオとジュリエット」が、シェイクスピアとヴァイオラの恋愛に影響を受けながら様々に姿を変えて行き、ラストで公開される様を描いて行く。この二重構造が実に気持ち良い。劇中劇と二人の恋愛が入り乱れて展開するが、その表現が難解になるのではなく、逆に理解を推し進め映画を盛り上げて行く。そして、編集のテンポの良さが映画全体にスピード感を与え、飽きる事なく最後まで映画を見る事が出来た。
題材がシェイクスピアなだけに、ちょっと小難しい内容の映画を覚悟していたのだが、まるで堅苦しくならず軽妙なタッチで描かれている点にも、とても好感が持てた。
キャラクター造形にその軽妙さが息づいているのも、この映画の魅力の一つなのでは無いだろうか。

また、それらのキャラクターを演じる役者も面白かった。シェイクスピアを演じたジョセフ・ファインズは、そのキャラクターの軽妙さもあってか、非常に伸び伸びとした、気持ちの良い印象を与えてくれて良かったし、アカデミー助演女優賞に輝いたジュディ・デンチの圧倒的な存在感など、ほとんど水戸黄門の様でとても楽しい。その他の役者も活き活きとした印象を受けた。
ただ、グウィネス・パルトロウに関しては、丁寧な演技をしているなぁとは思うものの特に凄いとは感じなかったが。

この映画でもう一つ特筆すべき点が有るとすれば、それは衣装、美術に関してではないだろうか。
アカデミーで美術賞と衣装デザイン賞を獲った事も十分納得できる。とにかく、素晴らしいディティールの細やかさ。群集シーンであったとしても、その一人一人の衣装に無理が無く、全体を見ても調和が取れていて、非常に精密な絵画を見せられている様な気持ち良さを感じる事が出来た。特にラストのカーテン座での公演シーンには、ただただ圧倒させられる。

だが、風で顔に張付くチラシや、何故に気付かれないか分らないグウィネス・パルトロウの男装姿など、設定上の気になる所は幾つか有る。展開や演出が畳み掛ける様な勢いが有るので私は大目に見る事ができたが、この部分が気になって映画に集中できない人もいるかもしれない。また、人間ドラマとしては、暗い深みの様なものが、いささか欠けるのも事実。
しかし、恋愛あり、アクションあり、笑いありで、素直に娯楽映画として見れば傑作だと思う。広く色々な人にお薦めできる映画だ。

Report: Jun Mita (1999.07.23)


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