Cinema Review

ミミック

監督:ギジェルモ・デル・トーロ
出演:ミラ・ソルヴィーノ、F・マーレー・エイブラハム

伝染病の蔓延する近未来のニューヨーク。女性科学者のスーザンは、媒介となるゴキブリを駆除する為に<ユダの血統>という生物を遺伝子組み替えによって作り上げ、地下に解き放つ。戦略は成功し伝染病は影を潜めたが、<ユダの血統>は独自の進化を繰り返して”ミミック”に至ると、新たな敵として人間を襲い始めた…。

結構評判が悪い映画らしいのですが、私は普通のB級モンスター映画として楽しみました。
そんなに期待しなければ、普通に面白いんじゃないでしょうか。

まず、カイル・クーパーによるオープニングから始まる冒頭のシーンには、かなりハッタリが効いていて素直に面白かったと思う。ハッタリを効かせるのは、音と映像だと思うのですが、冒頭ではちゃんと機能してました。画面の暗さも、何が起こっているか分りにくくなる代わりに、映像に不気味さを加味して。
映像と音のシンクロという意味では、地下鉄の駅でミミックと主人公スーザンが出会ってしまうシーンの電灯の細かい明滅の仕方もなかなか雰囲気が有って良かった。ジジジジジ…という感じの音と映像が、いら立ちをうまく表現し、増加させてくれた。

そして、なによりこの作品の一番ユニークな表現はその気持ちの悪い描写。
大量に天井に付いたミミックの糞、巨大なゴキブリの卵、いかにも不潔そうな下水道処理場で見付かる奇形の生物、床を這い回るゴキブリの群れ、哺乳類の肺を持った昆虫、虫の体液を全身に塗り付ける主人公達。
これらが前述の暗い映像の中で、ネチャネチャヌチャヌチャグチャグチャと表現されるのですから、たまりません。
多分この映画の制作者は、これがやりたくてこの企画を立てたんじゃ無いでしょうか。それぐらい「気持ち悪い描写」を中心に映画が成立しているように感じました。

と、ちょっと良い所(?)ばかり取り上げましたが、勿論、欠点も相応に有りました。
とりあえず、御都合主義に過ぎる描写と人物描写の薄さ。
この手の娯楽映画を見る時は、なるべくこう言った部分は気にしないで見るのですが、この映画に関してはちょっと…。
伝染病を防いだとは言え、先輩科学者の反対を押し退けて<ユダの血統>を作り上げたのは、この女主人公です。で、自分の責任ですから虫の退治に彼女が行くのは当然なのですが、これに巻き込まれて死んで行く人に対しての責任をほとんど感じて無さそうな描写と言うのは…。ただ、やってしまった事の帳消しをしに行ってる様に見えるんですよね…。
で、その延長であのラストだと、お前が良けりゃそれで終わりかい!と突っ込みを入れたくなるんですね。
もうちょっとは人物描写、キャラクターの描き分けをしっかりしても良かったのではないでしょうか。登場人物が、ただただ使い捨てにされている印象を持ちました。

あと、クリーチャーの魅力の無さも。ただ、これは、虫の気持ち悪さを強調したいのだろうから、カッコ良いものにならないのは、しょうが無いのかも知れないですね。気持ち悪いのは、前述した通り、ほんと気持ち悪いですから。
で、気持ち悪い描写が強すぎて、ホラー的な印象が薄いのも弱点ですね。

まぁ、可もなく、不可も無くという印象のこの映画、見る映画が無くなった時には良いのでは無いでしょうか。かなり気持ち悪いですけど。ストーリーの弱い所は突っ込みいれてウサを晴らしましょう…。

Report: Jun Mita (1999.06.23)


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