Cinema Review

岸和田少年愚連隊

監督:井筒 和幸
作者:中場 利一
出演:矢部 浩之、岡村 隆史、大河内 奈々子、大杉 漣、八木 小織、秋野 暢子、小林 念侍、山城 新伍、笑福亭 松之助、石倉 三郎

ケンカに明け暮れる岸和田の中学生の毎日を描く。

公開当時、結構一般の評価が高かったような記憶がある。もちろん大ヒットはしなかったが。原作の中場利一は、『一生遊んで暮らしたい』とかなんとかいうエッセイを書いていた記憶がある。(ちなみにそこでも「小鉄」という親友が登場する。)内容はウソかホントか、いい加減なことばかり書き並べてあるのだが、全部ウソではないことが判るリアリティもあって、とにかくおもしろかった。

この作品は、それらのトンでもないストーリーを、そのままフィルムに焼いたようなものだ。もちろん映像にする時点で、エッセイのような現実・虚構バランスでは駄目なのは当然だから、井筒監督はここで更にトッぴな絵(具体的には俳優の顔、振舞い)をはめる方向に走っている。結果としてこの策は成功し、原作者のエッセイが持っていた面白さをうまく表現しているんじゃないかと思う。

主演は漫才師(?)の矢部浩之だが、彼も含めて出演者は皆キャラクターが立っていて、見ていて楽しい。この作品には、ものすごくたくさんの俳優が出演している。それに埋もれないように、皆それぞれに思いきり個性的な役を与えているが、しかしまあよくうまくいったもんだ。この極端なキャラクター設定は、漫画的なストーリーに入り込みやすくする効果もありそうだ。
ちなみにここに挙げた俳優の名前は、エンドロールから僕が見覚えのある名前をせいぜい引っ張ったに過ぎず、カタキ役のツッパリ君数名などは、実にいい味を出していたのだが判らないまま挙げていない。
この、溢れんばかりの個性の激突が映画を支えている。逆に、気持ちいいくらいストーリー性はない。ケンカに始まり、ケンカに終る。やってはやられ、やられてはやり返す、ただそれだけだ。それぞれのシーンの掛け合い、エピソードは文句なく面白い。だがそれ以外の何かがあるわけではない。ただこの切り落とし方が気持ちいい。
エンディングも実に淡々としたものだ。冒頭のシーンから回想として三年間が描かれ、そこに戻ってきたので、ああ、終りだなと思うだけで、もしそうでなければブチ切りに見えるだろう。

ところで、一応、皆、中学生の役なのだけれど、主演の矢部を含めて、全員20歳をとうに越えている。もちろん主役だけover 20で、他が皆本物の中学生じゃ、バランスが取れないんだが、それにしても大河内奈々子や八木小織の中学生とはすごい。逆にここまで来ると、中学生ということを意識できなくなり、何か別世界の物語のような気がしてくるから不思議だ。つまり違和感を感じないのだ。逆に本当に中学生の俳優を選んだとしたら、生々しくなって失敗していただろう。
僕は大河内奈々子の出演作をほとんど見たことがないのだが、この作品での彼女は、ふわふわして、しっかりして、イロっぽくて、清純で、なかなか良い。個人的には、この作品中ベストキャストだ。続編では確か鈴木沙理奈に変わったと思うが、きっと適役だろうと思えてしまう。そしてそのぶん、きっと詰まらないだろうなと勝手に思い込んでいる。

Report: Yutaka Yasuda (1998.09.27)


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