Comic Review

惨劇館2

作者:御茶漬海苔

御茶漬海苔のスプラッター短篇集第2巻。

A:<娘>「パパ 準備OKよ」

   娘(部屋の外)< 侵入不可能 > 書斎(聖域)

B:<父>「あ・・・ああ すぐ行く」

   Bの「・・・」は、1.突然の娘の来訪に対する驚き。
            2.進行中の作業を中断させられた怒り。<MYST 1>
                       ※作業=「日記をつける」
切替え
「日記帳を閉じるアクション」→「表紙」
             意味有りげな余韻 ( 対象:日記帳)<HINT 1>

  「表紙:さゆり(娘)の晴れ着姿」と「タイトル:肉玉」が結び付かない為、
  内容の想像が困難となる。→作者の表現的勝利(読者の視覚的敗北)

C:<父>「かあさんにもさゆりの晴れ着姿を見せてあげたかったよ」

  この台詞の持つ意味:母の不在(1.死  2.失踪  3.離婚)
    証明:仏壇に飾ってある写真を見つめ、さゆりは「ママ・・・」とつぶやく。

   「母の死」が物語に関わってくる可能性有り。母の死 <HINT 2>

D-1:<電話>「リーン」
D-2:<父>「だれだ新年早々」(電話はさゆりが取る)

     D-2と「晴れ着」から、季節は正月と想像される。
     新年早々つける日記:1.今年の抱負
               2.正月を想う詩的文章 <MYST 2>

E:<娘>「パパ わたし友達4人と初詣に行って来る」

     E(娘の証言):D-1=友達4人
     父は人数まで聞いていない。   詳し過ぎる説明→嘘

F-1:<娘>「はーい じゃあ行って来ます」
F-2:<ドア>「バタン」

     御年玉:さゆりが、嘘の成功を確信したアイテム。
         話題転換の効果も有り。

     a.出かけるさゆり←対極→b.見送る父
         ※a.さゆりの笑顔:右目=嘘の成功
                  左目=御年玉
                  口元=電話の本当の内容

     F-2以降:玄関に立つ父、バックの暗調トーン、電話、父の靴、父の下駄。
          父の両瞳のアップ→懐疑の記号 <HINT 3>

     おせち料理:時間稼ぎアイテム。

電話ボックスの前でさゆりに手を振る秀一。(電話の真実)
G:<さゆり>「秀一君」
               ※Gの笑顔=F-aの笑顔
   <秀一>「怪しまれなかったかい」
   <さゆり>「うん 大丈夫」その様子を隠れて見つめる父。

腕を組んで歩き出す二人。  その様子を隠れて見つめる父。<HINT 4>

H-1:<娘>「ただいまー」(不安)
H-2:<娘>「パパ おそくなってごめんね」(不安)(不安)
H-3:<娘>「パパー」(不安)(不安)(不安)
H-4:<娘>「パパー 怒ってるの」(不安)(不安)(不安)(不安)
H-5:<娘>「ねえ パパ」(甘え)
H-6:<娘>「パパ 一緒に御節料理食べよ・・・・ね!!」(作戦)

    置き手紙:「親戚のところに年始にいってきます。 父」

    (誤)新年の人の出入りを嫌うはずの父が、自分から人の家を来訪したり
       するだろうか。<MYST 3>

    (正)父が嫌うものは人の出入りではなく、団ランの妨害である。
       しかし、父は娘の帰りも待たず一人で外出した。
       娘に関する緊急事態が発生したに違いない。<HINT 5>

夜空(満月)

      ローファー:コツンコツン←対称→下駄:カランカラン

I-1:<秀一>「気のせいか・・・」視線ルート:右→右後→後→I-1→左(I-2)
I-2:<ナタ>「ザクッ」血しぶき。秀一の左後頭部にナタが突き刺さる。(致命傷)
    <メガネ>「パリン」飛び出す右目。ナタの威力を物語っている。

    倒れる秀一。 犯人の正体 <MYST 3>
          犯人の手がかり:ナタ、下駄(F-2玄関のものと同型)

J:<娘>「パパ おそいなー」
          時間:午後11時02分 場所:家の居間

    さゆり、寝るために部屋へ移動するアクション。
    父の部屋に電気がついているのを発見。消しに行く。
    聖域への侵入は物語の急展開を意味する。
                ※乙女=いけにえ in聖域

     父の書斎:机、イス、本棚、窓、カーテン
     机上にあるもの:母の写真、スタンドライト、本(2冊)、筆箱、 
              マグカップ、日記帳   

  <娘>「ママのこと書いてあるかな」
           日記を読み始めたさゆりの表情が途端に厳しくなる。
                1.字が汚くて読めない。
               2.変な事が書いてある。<MYST 4>

K:<日記>

      物語は父の日記から、回想を始める。
       
      ヌイグルミin小型マイク=クマ:父のセンスレベル暴露。
      また、ヘッドフォンは、1.至福の時間を与えてくれるアイテム。
                 2.正直ゆえに残酷なアイテム。 
                       という2つの意味を持つ。
                            
      ここでやっと、「タイトル:肉玉=さゆりの母 静江」という事実を、
      日記は告白する。
      そして、次の公式が生まれる。
              
          父の狂気←<反比例>→母の体積
          父の愛情→<正比例>←母の寿命

L:隠し部屋
 
  <点滴>「ピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッ」

         さゆりは、母 静江と17年振りの再会を果たす。
         が、感動に浸っている余裕は無い。
         日記を読んでしまった事は、物語がクライマックスに到達した事を
         意味し、ただで済む訳が無いとさゆり自身気づいているからである。
         
M:アクション        

          突然を装った次のページトップでの父の出現。
          さゆりは待ってましたと意外そうに振り返り、
          父の姿を確認してから、ヒロインチックな叫び声を上げる。
          この叫び声は、「父(強者)、娘(弱者)」という家族の
          ヒエラルキーを音声化したものであり、同時に、母の入っ
          た水槽をひっくり返す衝動としての役割も果たす。

      「母の入った水槽をひっくり返す」=父(権力)への反抗=パンクス

N:<父>「さゆり・・・ママ死んじゃったよ・・・・」
 <娘>「こ・・来ないで・・・」
 <父>「さゆり・・・さゆりはパパのこと好きだよね・・・・」

      隠し部屋から出たさゆりは、すぐに秀一の死体を発見する。
      <MYST 3>の犯人は父であった事が判明。
 
       妻を失った父の愛情の矛先は 娘 さゆりであり、さゆりもまた
       この物語の自称ヒロインとして、父の選択を受け入れるだろう。
       結果、さゆりは父に自分の体を提供し、父の新しい愛玩具として
       第2の人生を歩き出すのだ。

この物語の最大の謎は、なぜ父が、他人に見られてはまずい、あんな危険な文章をいちいち日記帳に残していたのか、ということである。
そして、日記とはその日1日を振り返って書くのが普通なのに、一体 正月の朝から何を日記帳に書いていたのか。

父の決意を書いていた、と考えることができる。父は以前から、新年を機にさゆりを肉玉にする気だった。そして実行の日の朝がやってきたので、その興奮を言葉で残しておこうと、日記をつけたのだ。
そう考えたなら、この物語の全ての出来事は父の計画的犯行だった、ということになるのだが、推測で作品を解釈してはいけない。推測で作品を解釈すると、例えば物語冒頭の 父が日記を閉じるシーンまでが現実で、表紙以降は全て 父の日記の中での出来事、つまり父が日記帳に書いた自作の小説の映像化だった、といった風なムチャな想像さえ可能になってしまうのだ。
推測での解釈は、物語の崩壊につながる。我々のやるべきことはむしろ、物語の中で語られた真実(この作品の場合 肉塊と化した妻娘を溺愛する父の猟奇的性格)を味わうことである。

「謎」というものは、 知ってはいけない、また知ろうとしてもいけない、物語の中のバベルである。時には 作者自身 何の答えも用意していない「謎」なんてものさえ存在する。
よって我々は、物語の「謎」を追求する必要も、物語から設定以上のことを探そうとする必要もないのだ。

Report: Takahiro Koga (1997.08.29)


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