Cinema Review

ロストチルドレン

Also Known as:The City of Lost Children、La Cite des enfants perdus

監督:マーク・キャロ、ジャン-ピエール・ジュネ
出演:ドミニク・ピノン、ロン・ペルマン、ジュディ・ヴィテ

誘拐団が次々に子供をさらう。それはクローン人間は見ることが出来ない「夢」を、子供たちから得るためだ。さらわれた弟を捜しに兄は歩き回り、その街に住む不思議な住人達と出会う。

このジュネ・キャロのコンビによる作品としては他に『デリカテッセン』が有名だろう。僕もずいぶん前に見た。しかし、好きにならなかった。その映像のせい、いや、その悪趣味趣味のせいだろう。映像的にも、物語的にも。

けれど一般に『デリカテッセン』の評価は高く、そうしてジュネ・キャロは有名になった。トンカチの音に合わせてマンションじゅうの住人が小刻みに動く有名なシーンはよくパクられた。高岡早紀が出ていた歯磨きのコマーシャルや、石井竜也の『河童』(かっぱ)などがそれだ。

しかし、しかし。その映像の個性は認めるが、僕は好きにならなかった。

対して、この『ロスト・チルドレン』は非常に気に入った。悪趣味趣味がやわらいで、対照的に表に出てきた美しさに眼を奪われた。登場する奇怪なクローン人間(一人何役なんだ?)や、過飽和した湿気と水の描写など、『デリカテッセン』で僕が嫌った要素に近いものを抱えたままだ。しかしその展開の明るさと主演(と言ってもいいだろう)の少女の魅力が、それらを美しさに転化したと言ってもいい。

美しさの一つの源泉は、その作り込みの緻密さにあるのではないだろうか。セットの作りの丁寧さは素晴らしい。どの場面も、どのカットも一つの絵になるだろう。画面の隅の方の小さなオブジェまで神経が通っているようだ。ストーリーもそれに合うタイトな計算を感じるものだ。そして衣装がまた良い。ゴルチェと言うデザイナーブランドなのだが、その独特の赤色と全体を支配する色調との対照が良い。
主演の少女は常にこの赤色の服を着ている。そして、そう、その整った顔立ちにさえ、僕はジュネ・キャロの緻密さを感じてしまうのだ。

実に美しい映画だった。

Report: Yutaka Yasuda (1997.07.03)


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