Cinema Review

砂の器

監督:野村 芳太郎
出演:加藤 剛、森田 健作、丹波 哲朗、島田 陽子


…とある取材で、瀬戸内海の国立療養所に行くきっかけがありましてハンセン病(らい病)について取材をしてきました。
日本にもこんなところが今だにあったんだと阪神大震災以来の強烈なショックを受けてきて帰ってきました。

そしてさっそく、近くのレンタルビデオ屋さんを数件さがして「砂の器」を借りてきて見ました。
すると療養所の人たちを思い出して、じ〜んとして何もいえない状態になってしまいました。高校の時に見たのとまた、自分の子供ができてから見たのでは、見る方向が変わっていました。
昔の映画でも人生経験によって変わってきますよね。

セリフがなく、音楽だけで涙、涙がつづく場面の展開は見るものをひきこみますね。
当時は気がつきませんでしたが、森田健作もイメチェン第一弾にしては、演技は絶好でした。やはりウマイのは、丹波哲朗さん。この役はほとんど地でいっているのかもしれません。

どのシーンもズームアウト、アウト、アウトとつながることによって人の心情から場所へと空間を演出する説明的なカメラアングルも今ではあまり見られないですが、ひさしぶりに見ると新鮮でした。

一番好きなシーンは、療養所に連行される父親を線路の向こうからおいかけてくる子供の別れのシーンです。普通なら「とう〜ちゃ〜ん!!!」の涙、涙なのですが、音楽だけで、しずかに展開されるのですが、見ている人たちは、きっと心の中で自分に一番フィットする言葉を叫んでいるんでしょうね。

遠くから子供が涙をふきふき走ってくる。
それに気づく警官。警官の視線を追う父親。
父親の遠くを見つめるまなざし。
子供がさらにかけよる。
警官を横切り、子供に向かう父親。
抱きあう親子。
ハンセン病の父親の顔面がさらにゆがむ。クローズアップ。
子供の顔。さらに父親。
トンネルの向こうから汽車がゆっくりと近づいてきます。
音楽が汽笛にかき消される…。

子供ができてから映画を見直すというのは結構オススメです。反対に子供の頃に見た怪獣映画を絶対ビデオで見てはいけません。見るのなら劇場です。…でもその頃の怪獣映画は劇場ではやってないですもんね。

大人になって見えてくるものと、見えなくなるものがきっとあるんでしょうね。

気になった点は、

島田陽子がなぜ、わざわざ血痕のついたシャツを列車の中からふらすのか?(原作がそうだからでしょうね?)あたりの説明不足は最後まで気になりました。未処理で終わってしまいました。
また、ラストはもう少し、ねばってもらってもよかったのでは…。アレレここでおわっちゃうの?ってなかんじです。
つかまえてパトカーに乗せる「夜明けの刑事」までいかないまでも逮捕の瞬間の犯人の演技を見せてほしかったですね。

ひさしぶりに見る日本映画もまたよかったです。

Report: KNN (1997.04.10)


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