Cinema Review

青春デンデケデケデケ

監督:大林 宣彦
出演:林 泰文、大林 嘉之、浅野 忠信、永堀 剛敏、佐藤 真一郎

'60、古き良き時代の友情をテーマに描いた青春映画。ロック・バンドを組んだ少年達の繊細な感情の移り変わりを四国、観音寺の素朴な風景に織り混ぜて描く。ビーチボーイズ、パイプラインの当時の衝撃。ギターへの憧れ。バンド結成。軽音部。日々の練習。合宿。メンバーそれぞれの恋。人生の選択。そしてライブ当日。解散。

'92。日本。原作は芦原すなおの直木賞を授賞した小説。どこにでもいそうで、それでいて個性的な役柄を当時無名の新人達が好演。とにかくこの映画がコミカルな面白さを感じるのは彼らの若々しい自然体の演技による所が大きい。もしかしたら演技ではなくて撮影現場に集まった若い彼らの日常の会話なんじゃないかと思うぐらい生き生きとした演技だ。きっと撮影現場は楽しかったのだろうなって感じる。バンドは学園祭のライブを最後に解散するのだが、きっとあのシーンは役じゃない生身の彼らの解散ライブなんだろう。実際に人を集めてライブをやっている現場を撮影しているのだが、リアルな学園祭ライブシーンだった。きっと彼らにとっても思い出になったに違いない。

主役のチックン(バンドリーダー、リードボーカル、サイドギター)役は、林 泰文。彼は今何をしているのか知らない。他の映画で見かけたことがない。バンドメンバー4人(5人?!)の中で最もキャラ立ちしていない。一番普通の人に近い演技もしくは役設定なので、主人公チックンの目を通した映画と考えるならば、彼の演技で正解か。映画の作りも原作を意識したのか主人公の目を通した構成になっていたし。でも、他のバンドメンバーがキャラ立ちして目だってただけに、5人の個性のぶつかり合って起こる様々な事件を客観的に綴った方が面白かったと思う。

口の達者な坊主の郷田 剛(ベース)役に大林 嘉之。最近では『走らなあかん、夜明けまで』にチンピラ役で出ていた。すごく演技力のある人でこの映画の中で最もいい演技をしていたと思う。もしあれだけ口数の多い役柄を脚本にはないアドリブが混ざっていたのなら彼は大物の役者だ。とにかくセリフが自然体で役的には一番キャラ立ちしていた。

テクニシャンのギタリストで主人公チックンと最も感性が合い、バンドの精神的な核になる寡黙で控え目でかつ結構熱い奴という難しい役柄の白井(メインギター)役に若かりし頃の浅野 忠信。現在はもう今をときめく若手注目株の役者になった。僕が観た彼の出演している映画は『バタアシ金魚』『幻の光』。いずれも主役級の重要な役を演じている。僕はあまり気に入ってはいないんだけど、確かに存在感の強い役者である。CHARAの夫でもある。

バンドにリズムパートが足りなく吹奏部の小太鼓だったために目を付けられ脅され、「バンドやったらもてるでぇ」とのせられバンドメンバーになったおいしい役、明石のタコを演ずるは永堀 剛敏。映画中にメンバーで真っ先に恋愛まで経験してしまう。彼の天然のキャラクタはこの役に非常にマッチしていた。この後、他の映画で彼の姿を見ていない。

正式なバンドメンバーではないのだけど(最後に名誉メンバーとなる)、今でいうPAのシーさん役に佐藤 真一郎。工学部を目指しラジオ、無線を自作するのが趣味で、お金がなくてアンプを買えなかったチックンに一晩でリバーブ(エフェクタの一種)付きギターアンプを作ってプレゼントしてしまうすごい奴。確かに目立たない役だが、設定が面白いのでもうちょっと彼には頑張って目だって欲しかった。彼も他の映画で見ていない。

舞台となるのが香川県観音寺。人口5万人程度の小さな街だ。銭形平次のオープニングテーマのバックにでかい砂で作られた寛永通宝の上で切り合いをしているシーンがあるが、その砂で作られた寛永通宝が観音寺にある。川沿いに南に下がると映画中では合宿地になっている大歩危、小歩危の峡谷になり香川、徳島、高知の県境となる。大歩危、小歩危を越えると甲子園で有名な徳島県池田市に一旦出て、すぐその南の山を越えると高知である。四国、四県をつなぐ古くからの交通の要所だが、その四国縦断ルートは現在の高速交通網にはあまり適さない地形なので、まぁただ古くからの交通の要所にしかすぎなく、それによって街が栄えているわけでもない。ようするに現在も田舎の風情を街の景観に残している土地なのである。

この映画のもう一つ良い所は、'60年代という時代設定でありながら、撮影された現在の観音寺の風景がすごくあっていたということである。もちろん、'60年代の町並みに比べてば観音寺もずいぶんかわったに違いないが、かわったにしても全体的な雰囲気は'60年代という時代設定でも無理がないのどかな風情がある。単なる小さな田舎街っていうわけじゃなくて、小さいながらも独特の文化の香りがする。

僕はとてもこの映画が気に入っているのだが、なぜなら映画はまるで僕の高校時代だからだ。僕の育った街に比べても小さい街が舞台で、しかも時代設定は'60年代なのにエピソードや素朴な恋愛観、友情のありかたなどはまるで僕の田舎の高校時代のようだ。ぜったいちょっとした都会ではもうすでに絶滅している感覚だ。しかも、僕は実際にバンドをやって学園祭ライブに闘志を燃やしていた時期もあったし(結局なんだかんだあって学園祭前にバンドが解散してしまい、僕は映画中のシーさん役のようにPAになっていったのだが)、映画が一番いいたい古き良き時代の感覚を、現代に生きる僕は身を持って知っているので原作者が監督が伝えたいことが素直に伝わるのだろうか。

とにかく確かに田舎の生活は都会では味わえない良さを持っているのも確かである。田舎で暮らしている本人達はまるでそんなこと気づかないけど。色んな意味でほろにがい思い出を呼び起こすので、この映画が気に入っているのだ。

Report: Akira Maruyama (1996.08.05)


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