Cinema Review

汚れた血

Also Known as:Mauvais Sang

監督:レオス・カラックス
出演:ジュリエット・ビノシュドニ・ラバンミッシェル・ピコリジュリー・テルピー

’86。フランス。舞台はパリ。愛のないセックスによって伝染する”STBO”という新種の病気が蔓延し、ハレー彗星接近の為、夜が暑いという世紀末近未来が設定。借金返済のため薬品会社が開発したSTBOの特効薬を盗もうと画策するマルクの計画にのるアレックス(ドニ・ラバン)は、マルクの愛人アンナ(ジュリエット・ビノシュ)に恋心を募らせる。そして計画実行の日…。当時ヌーベル・ヌーベル・バークの旗手だったレオス・カラックスのメジャー第一弾作品。この作品後カラックスはビノシュと結婚。(現在は離婚している。)

拝啓 ビノシュ様。

知っている人は知っているのですが、私はこの映画のあなたに一目見た時からほれてしまっているのです。ぽっ。

なぜ、あなたはこの映画ではこんなに輝いているのでしょうか。それは私生活がうまくいっていたのが画面の全面に出ていたからなのでしょうか。女は恋をしている時はかくも光る存在になってしまうのでしょうか。だとしたら当時の恋人カラックスに嫉妬してしまいます。その後のあなたは表情がどんどんと疲れていき、その後のカラックスとの結婚生活があまり思わしくなかったことを暗示していくことになるのですが、(それとともに渋い演技派女優として認められていくのですが)、少なくともこの時点のあなたはとても初々しく生々しい女そのもので、演技の表現力をはるかに超越して人々の心に訴える力を持っていました。人間そのものが持っている生命の喜びを感じる力が当時のかけだし女優だったあなたの演技力のすべてだったかもしれません。いづれにせよ、ひとつだけはっきりと言えることはこの映画の中だけに限って言えばあなたの存在はすべての演技を超越して存在を訴える何かの力を持っていたということだけです。その力を全てだし切っているのです。

この映画のあなたのショートカットの髪を息で吹き上げるシーンは、さりげないワンカットにすぎないはずなのに永遠に僕の心をとらえて離しません。それは何故なのでしょうか。きっと本当にあなたはこの映画の中で本気で恋をしていたからに違いありませんね。そのシーンがある限りあなたの存在は永遠に語り継がれることでしょう。

敬具 そのシーンの一ファン

ちなみにこの映画の脇役(アレックスの恋人役)ででてきたジュリー・テルピーの演技も、ほんの脇役にすぎないながらも存在感があり初々しくて当時すごく評価されていました。この映画の約10年後、ジュリエット・ビノシュもジュリー・テルピーもフランス映画界を代表する演技派の大女優となり、クシシェトフ・キェシロフスキ監督による『トリコロール』の青の章(ジュリエット・ビノシュ主演)と白の章(ジュリー・テルピー主演)の主役を張るのです。

もちろん、レオス・カラックス映画にしばしば登場するドニ・ラバン演ずるアレックスの演技も素晴らしいとしか言いようのないものです。これらの役者の演技力を最大限に引き出すことができたカラックスは、やはり天才と言わざるえないでしょう。

Report: Akira Maruyama (1996.05.06)


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