Cinema Review

2001年宇宙の旅

Also Known as:2001: A Space Odyssey

監督:スタンリー・キューブリック
出演:キア・デュリア、ゲイリー・ロックウッド

太古の昔、地球に一つの黒い板が出現した。それに触れた猿は道具を使うことを発見する。20世紀の末に今度は黒い板が月で見つかった。

制作、監督、脚本をキューブリックが(但し脚本は原作のアーサー・C・クラークと共作)行っている。キューブリック色の濃い作品となったようで、最後の方は何がなんだか良く判らない。原作を読めば判るのだろうか?言いたいことは判るような気もするが、それがキューブリックの意図とどれだけ一致しているかは不安だ。良くも悪くもそういう作品で、お蔭で僕はテレビで掛かる度に見ているような気がする。もう何度見たろうか。

一般的な2001年評はこの位にしておいて、キューブリックはつくずく凄い想像力のある人だと思う。この映画が制作されたのは1968年の事で、もう30年が経とうとしているが、いつ見ても近未来のような気にさせられる。大抵の近未来SFはすぐに現実が映画を追い越してしまい、近未来イメージが無くなって単に陳腐な未来描写が残るだけになるものだが、この作品にはそれが無い。つまり未来を想像する代わりに別の世界を構築してしまった為に、現実との距離感が常に近未来として感じられるのだ。こういうイメージを作り上げることの出来る人は少ない。『未来世紀ブラジル』『用心棒』などの黒澤明というところが僅かに思い浮かぶ。(黒澤明の時代劇活劇は翻訳するだけでどこの国でも予備知識無しに楽しめる筈だ。日本の古典としてでは無く別世界の物語として。)映画作家ではないがデザイナーでは『エイリアン』をやったハンス・ギーガー、『ブレード・ランナー』をやったシド・ミードなどの名前も上げないと駄目かな。うーん、趣味の人選だなあ。

しかしコンピュータ屋の目から見てもこの作品の未来描写には驚くべきところがある。最も単純に驚かされたのは木星探査船の計器盤にIBMのロゴが張ってあったことだ。これはキューブリックの洒落なのかも知れないが、それにしても面白い。
'68年当時IBMが作っていたコンピュータと言うのは、映画に出てくるようなグラフィクスディスプレイなどとは縁のない無機質なカードパンチャーやプリンタやテープドライブをゴンゴン動かす四角の箱に入ったものだった。専門のオペレータが操作して、恐らくそいつは白衣を来ていたはずだ。こんな機械のメーカーが20世紀末まで生き残って、宇宙船の航行システムを作っていると言う予測だ。ほとんど当たっている。凄い。
また当時の航空機の操縦席にある計器盤はやたらめったらにメーターとか表示盤やスイッチがぐちゃぐちゃと詰め込まれているような感じだったのに、この作品の宇宙船の操縦席にはコンピュータディスプレイが並んでいるだけで、メーターは一つもない。スイッチ、ハンドルの類もほとんど無い。現在の航空機はこれに近付いているが、'68年に想像し得た人はまずいないだろう。因みにこの船の中枢を握るコンピュータ、HAL9000は1992年製だそうで、既に現実の時間がそれを遥かに追い越してしまった。だがHAL程よくできたコンピュータを作るにはまだまだ時間が掛かりそうだ。僕はこの映画のタイトルを修正した方が良いと思うが、しかし何年と言われるとそれは難しい質問になりそうだ。『2020年宇宙の旅』か?もっと遠くか?

未来は予測するものではなくて、創り出すものだとアラン・ケイは言ったが、成程、では、いつHALを作ることにしようか。

Report: Yutaka Yasuda (1996.01.03)


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