Cinema Review

アポロ13

Also Known as:Apollo 13

監督:ロン・ハワード
出演:トム・ハンクスエド・ハリスケビン・ベーコン

アポロ計画で唯一事故に遭った13号が生還するまでの数日間を描く。

原作の一人に本作の主人公であるアポロ13号の船長、ジム・ラベルが含まれているのが面白い。彼はまたこの作品の中で何と13号を海から引き上げる海軍の艦長として出演もしている。それから僕はこの作品のパンフレットの中でジョン・ヤングの名前を見つけた。NASAでは良く見る名前で、幾つかのアポロに乗り、月も歩いた事がある筈だ。ジョン・ヤングはアポロ計画から随分経った後、スペース・シャトルの船長として再び宇宙に行っている。

アポロ計画は丁度僕が幼い頃にピークを迎えていた。サターン5型ロケットの打ち上げなどはアメリカからテレビ中継され、何故かその頃の記憶など無い筈の僕はそれを憶えているように感じている。ニール・アームストロング船長が乗って、初めて月着陸を果たしたのは11号で、この13号はその後を追うようにして数カ月後に打ち上げられた。しかし13号は打ち上げ3日目に酸素タンクの爆発事故を起こし、月着陸はおろか地球への生還も危ぶまれる事態に陥った。この事故は全世界中に中継され、多くの人々の関心を集めた。NASAのスタッフは死力を尽くして13号を地球に帰還させる為に必要な全てを計画し、実行し、成し遂げた。この作品はその数日間の人間の努力を描いている。素晴らしい。うるうると感動してしまった。
一般の映画評を見るとこの作品はそう大した評価を受けていないようだ。元科学少年しか感動しないと言う評を見て僕は笑ってしまった。僕は昔小学館の雑誌(ムック)「学習と科学」を購読しており、そのオマケに付いてきた様々なものを嬉々として組み立てた元科学少年の典型だったのだから、なるほどひとしきり感動したのは当たり前だと言うわけか。

主演がトム・ハンクスなのはいまいちだ。僕はどうしても『スプラッシュ』の印象が抜けない。(ダリル・ハンナは良かったけれど!彼女と釣り合っていたのは身長だけだと思ってしまう。)対してNASAのコントロールセンターのチーフを努めるエド・ハリスは良い。彼は『アビス』の時もそうだったが、絶対にやってやると言う強い意志が伝わってくる。久々に見たケビン・ベーコンはうーん、何と言うことの無い印象だった。

アポロ計画に携わった多くのスタッフが最も誇りに思っているミッションは初めて月着陸を果たした11号ではなくこの13号だったとパンフレットには書かれていた。この気持ちは僕には良く判る。殆どのエンジニアは「うまく動くはずなのに、何故か正しく動かないものを、何とかして動かす」という全く後ろ向きの仕事をしている。エンジニアにとってこの後ろ向きの仕事を続けるために必要なのは「正しく動くことを期待している多くのユーザーの為に、ここは何とか解決してやろう」という気持ちだけであり、それは自分自身への誇りにのみ依っている。極めて奉仕的である反面、極めて自己満足的だ。この矛盾した感情についてはうまく説明できないが、僕はエンジニアとして仕事をするためには本質的に必要なものだと思う。これがなければエンジニアなどと言う商売は初めからやっていられない。だから最悪のトラブルを絶望的な制約条件の中で解決した時の事は忘れられない。
NASAは現代において世界で最もチャレンジングな仕事を続けている稀有な組織だ。それは冒険と言ってもいい。ジェミニの時も、ボイジャーの時も、ハッブルの時も様々なトラブルに直面し、彼らは乗り越えてきた。だから彼らは人間の力を信じているように僕には見える。自然の驚異を常に最前線で見続けてもなお、彼らは人間の可能性を信じているのだ。自然の素晴らしさもNASAが僕らに教えてくれる夢の一つだが、局限状態で彼らがどれほどの事をやってきたかという事は、僕ら自身の可能性に対してNASAが教えてくれる大きな夢の一つだと思う。

Report: Yutaka Yasuda (1995.09.18)


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