Cinema Review

写楽

監督:篠田 正浩
出演:真田 広之葉月 里緒菜、フランキー堺、岩下 志麻、佐野 史郎

江戸時代の浮世絵師、東州斎写楽の謎をフランキー堺の大胆な仮説で描く。

久し振りに見た邦画だけれど、良かった。ロードショーで見損ねてしまったのだが東京に行った際に空いた時間に映画館に寄って見たのだ。

この映画はプロデューサーであるフランキー堺が長い間温めていたアイディアを映像化したもので、このフランキー堺の映画にかける思いが作品に集中力を与えているのだろうと思う。東州斎写楽は海外でも評価を受けている非常に有名な浮世絵師だが、実のところ謎に包まれた人物だ。その200点に及ぶ作品は300日程度で描かれたもので、その後にも先にも写楽の絵が現れた事はなかった。風のように現れ、忽然と消えたのである。写楽がどのような人物なのか何も記録は残っていない。
フランキー堺はこの写楽を歌舞伎役者のとんぼ切り(っていうのかな?)の男として物語を構成している。この男は芝居の途中で足を痛めてしまい舞台から外れてしまうが、それでも芝居にかける思いは消えることがなく、得意の絵を書き割り(舞台背景)描きに活かし、裏方として芝居に参加し続ける。普段はまた傾き(かぶき)ものの一座と行動を共にしている。

真田広之はこのきれいにとんぼを切って見せる身の軽い男を演じている。フランキー堺演じる当時の本屋(写楽などのパトロン、出版元)の主人、佐野史郎演じるもう一人の人気絵師、喜多川歌麿(彼はしかし春画を描いている)、そして遊廓の女を葉月里緒菜が演じる。
今のうちに役者のことを書いておこう。葉月里緒菜が良い。彼女は額が広すぎて髪を上げてしまう時代劇には余り向いていないと僕は思っていたが、見慣れてしまうとそれほどでもない。余りにも台詞が少なかったが、面白い雰囲気を出していた。真田広之がまた良い。彼はどうも最近歳の判らない役をやっているが、実年齢はもうかなりいい歳のはずで、今回のように夢に走る若者を演じるには合わない様にも思えるが、なかなかどうして丁度良い感じだ。素直に良い役者だと思う。

葉月里緒菜演じる遊女は写楽とほんの少しだけしか遭うことがなかったが、水上げされる前に初めて写楽を見てからずっと想い続けている。結局彼女は歌麿に水上げされておいらんとなるのだが、それからも誰にも心を開くことが無い。写楽もこの遊女にずっと心を預けている。
決して自分に心を開くことがない女と、自分には決して描くことの出来ない激しい絵を描く写楽に歌麿は腹を立て、写楽を捕まえてきて女の前に引き据えて女を連れて消えろと言う。足抜けである。女郎が足抜けをしたとなると見つかれば大変である。歌麿はお互いに行きずりの男と女がその怖さを超えて心で結ばれているのかどうか試したのだが、女はさらりと男の服に着替えて名も知らぬ男との真っ暗な未来への逃避行を選ぶ。歌麿は果して望む通りになったのだがしかしその結果に泣く。男と女はすぐに見つかってしまい、男は顔を切られ、女は場末の女郎屋に出されてしまう。

ラストで傷ついた男はそれでもまだ傾き者と一緒に踊り、見事にとんぼを切って見せる。女は女郎屋の表に立つが、しかし心はまだ閉ざしたまま。この二人がまた出会うときが有るのか、その先どうなるのか、この作品ではそれは描かれていない。

フランキー堺はこの作品で芸に生きる男、想いに生きる女を描きたかったように僕には見える。

Report: Yutaka Yasuda (1995.07.08)


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