しかし利用者にとって IP アドレスをいちいち記憶し、指定するのは面倒である。
また、IP アドレスはホストコンピュータの接続されているネットワークの変更などによって変化してしまう。
それを逐一知り、対応するのも面倒である。
そこで TCP/IP には基本的に IP アドレスに一対一に対応するニックネームを割り当てる機能が提供されている。
これは他のプロトコル、例えば BITNET, DECNET でも一般に良く行なわれている方法である。
しかし拡大していくインターネットの中で、ニックネームの命名に何らかの管理が必要だということになった。 そこでインターネットではこの名前を階層的に命名することにした。これがドメイン名である。
IP アドレスはホストコンピュータの状況の変化によってたびたび変化する。 それをフォローし、変化を吸収してくれるドメイン名はネット利用者にとって不変のポインタとして利用されてきた。 正しく機能していたと言っていい。
しかし現在ドメイン名は一つの危機に直面している。それは技術的な問題ではない。
利用者にとっての直接のポインタの一部となるドメイン名について、商標権との一致などを求める傾向が強まっているのだ。
まずドメイン名は利用者にとって資源への不変のポインタであるべきだ。そう望まれて、そう作られた。
それを(それほどとは思えないが)直観的に社名や商標を指すように見えるから、と商業上あるいはそれ以外の利益のために変更するべきではない。
これはドメイン名システムを流用したことによる副作用的悪影響であって、是非を論ずるような問題ではない。
好都合と悪影響の間で押し問答するしかないのである。
そして現実にそうなっているところがまた情けない。
それ以外に、それより良い解決方法を考え付かなかったのだろうか?
押し問答より、それを飛び越える解決策を捜そう。 技術でそれを解決しよう。 ネットの中では、いつだってそうしてやってきたんじゃないのか?
社名、商標からネットワーク上の資源の所在地を割り出す、と言うことはすなわちアドレス解決 (Address Resolv)の問題である。 ドメイン名から IP アドレスを割り出す DNS、IP アドレスから MAC アドレスを割り出す ARP、これらと同様の Resolving の機構がそこには必要なのだ。 つまり WIPO などによって国際的に管理された商標などから、ネットワーク上の資源の位置を示す名前、ドメイン名へのリゾルブができる仕掛けが求められているのだ。
これを例えば Web にうまく組み込むことが出来れば、 URL を勘で打ち込んで JPNIC が jpnic.ad.jp だったか jpnic.co.jp だったのか悩むこともなく、松坂屋は matuzakaya.co.jp だったのか、それとも matsuzakaya.co.jp だったのかで悩むこともない。
「松坂屋、デパート」と指示するだけで間違いなく日本の松坂屋デパートを見つけられるだろう。
「JPNIC」と指示すれば幾つかの JPNIC 名の組織が表示され、そこで容易にネットワーク管理をやっている組織を選び出すことが出来るだろう。
検索エンジンに似ているが、全文を検索して本物と一緒に大量のゴミを見せてくれることはない。
「花王石鹸、ホワイト」で、間違いなく目的の製品だけをヒットできるだろう。
管理された商標では衝突が起き得ないからだ。
(Realname社(http://www.realnames.com/)がこれと似たようなことをやってくれそうなのだが、しかしどうやら運用ポリシーが違うようだ。)
早いもの勝ち&後から訴訟ルールをやめて、事前に商標登録したものだけドメイン登録、ということで解決できる種類の問題ではない。
何が足りなくて、どこに無理が来て、何を作ればいいのかが分かってもらえるだろうか。
ネット世界以外の人は、現実の延長上の未来を前提に、将来の利益のために現実の不都合を調整しようとする時がある。
今までそれでうまくいっていたからだろう。
そういう人たちの暗い努力を吹き飛ばすような新しいものを、僕らは作らなくてはいけない。
それが停滞せず前に進むための力になるのだ。
6 July 1998